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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 石川直也個展『自立しない人―この世界のどこか―』

展覧会『石川直也「自立しない人―この世界のどこか―」』を鑑賞しての備忘録
KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2024年12月21日~2025年1月13日。

壁に立て掛けられるなどした自立しない人体彫刻「自立しない人」シリーズと関連する絵画とで構成される、石川直也の個展。

《自立しない人 繋がりと作法 3-1》(1000mm×210mm×210)は、5頭身の少年と思しき大理石像。縦にほぼ半分に割られたように左半身のみが表わされ、切断面は研磨されずそのままで、所々にドリルで刳り抜いたような穴も残されている。別の用途に用いようとした石材を転用したのかもしれない。目鼻、腕、胸、腹、脚が大まかに表わされ、手は腰と癒着し、足先の表現はない。滑らかに研磨された肌が縦に走る模様と相俟って作る流麗な印象により、簡略化された表現に違和感はない。左脚のみで足の表現もない像が自立することは不可能であり、背面で壁に立て掛けられている。
《自立しない人 15》(300mm×80mm×70)も左半身のみを表わした大理石の人物像であり、背面で壁に凭せ掛けてある。顔の表現はより曖昧である一方、腹部を覆うような右手、あるいは交差させた右脚の先などが表わされる。

表題作の「自立しない人―この世界のどこか―」シリーズは、大理石の人物像と木立をモティーフとした絵画とを組み合わせた作品。《自立しない人―この世界のどこか― 1》では、左脚をやや前に出した人物の胴部の彫刻(720mm×180mm×170mm)が、笹のような植物に覆われた大木を描いた画布(800mm×650mm)を敷くように挟み壁に立て掛けてある。《自立しない人―この世界のどこか― 2》では、左手をポケットに突っ込み、やや前傾みの人物の左半身を表わした彫刻(930mm×250mm×210mm)が、下草や蔦が繁茂する木立を描いた画布(1050mm×850mm)を挟んで壁に立て掛けてある。《自立しない人―この世界のどこか― 3》でも人物の彫刻(380mm×110mm×60mm)が絵画(320mm×490mm)を挟んで壁に立て掛けてあるが、絵画の主たるモティーフは倒木となっている。
「自立しない人―この世界のどこか―」シリーズの絵画に描かれる草木は、彫刻の人物とは対照的に、自立しているように見える。《自立しない人―この世界のどこか― 3》の絵画に描かれた倒木が、自立を強調する。尤も、草木が立つことができるのは、見えない根が存在するからであり、なおかつ根は大地なくしては茎や幹を支えることはできない。すなわち自立とは、生物をそれを支える環境から切り離して捉えた空虚とも言える観念なのである。人物彫刻において切断や欠損を執拗に繰り返し表現するのは、その存在を支える不可視もとい、見ようとしていない存在に目を向けさせるためであった。あらゆる存在は「この世界のどこか」に支えられるとともに、この世界を構成しているのである。