可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 イケムラレイコ個展『土と星 Our Planet』

展覧会『イケムラレイコ 土と星 Our Planet』を鑑賞しての備忘録
国立新美術館にて、2019年1月18日~4月1日。

 

絵画や焼きものを中心に200点を超える作品を、16のテーマで紹介するイケムラレイコの回顧展。展示構成は、建築家のフィリップ・フォン・マットが担当。

 

冒頭に、拡大された《生命の循環》が掲げられる。移ろい、死と再生といったイケムラの作品に通底するテーマを象徴する作品。寒さを忘れて、どこへ向かうべきか。

最初は「原風景」。スイス滞在を機に描かれたアルプスのインディアン・シリーズが紹介される。《マロヤ湖のスキーヤー》と題された作品は、雪舟等楊の作品(おそらく《秋冬山水図》の「冬景」)に基づいたもの。ヨーロッパの自然の中に東洋の理想郷を見出したのだろうか。

続いて、舞台のような場所に、生き物と建築とか融合したような焼きものが並べられた「有機と無機」。舞台の向かいの壁には、イケムラレイコの詩「自己問答」が掲げられている。

どちらでもありどちらでもないという
両極を触れながら揺れるという
生存というすがたに秘める洞窟
彫刻というのは本当はあてはまらない
ある塊を削っていくのではない
内に秘めながら彫塑するのは
やわらかさから発展する
ぐにゃぐにゃとした土はからだをみずからつくろうとする
手を使って造られるものには霊を吹きこむことができるようだ
無をなぞって造られていく、からだやたてもの
それは家であり柱であり植物であり生き物であり人であり存在であり
私ではない、造るのは
概念ではない
カミサマ?
イエ、宇宙の意思かも
上と下、東と西をどんでん返し
かたちが形を生む
10億年の記憶が我々にある
私のバード性を示そうか

イケムラレイコ「自己問答」

 

続いて、「ドローイングの世界」。舞台のような基盤を必要としていた直前のセクションの焼きものとの対比で、木炭などで紙の上に表される姿かたちの自由闊達が強調される。

イケムラの代表作と言える少女像を紹介する「少女」のセクションは、緑色のワンピースの少女の焼きもの《ミコを抱いて横たわる》で始まる。タイトル通りの横たわる少女の像が、あえて高い位置に設置されている。像の持つ「虚ろ」を視界に入れやすくするとともに、《横たわる少女》などの横たわる姿の絵画群だけでなく、《舞い降りて》に描かれる浮遊する姿の絵画とも共振させる効果が与えられている。

「アマゾン」では、剣や頭蓋骨を手にした女戦士たちがタペストリーのように展示室内に吊り下げられて展示されている。

「戦い」では、太平洋戦争をテーマにしたような作品が並ぶ。

「山」では、足下に顔と火山とが一体化した焼きもの《フジフェイス》が置かれている。「木」では、人や動物と木とが一体化したような作品が、「炎」では、女性と炎とが融合した作品が見られる。

「うさぎ観音」では、映像作品《いずこでもない》が壁面に投影されている展示室内に、巨大な《うさぎ観音Ⅱ》が鎮座する。うさぎのような長い耳を持つ観音の下半身はスカートを履いたような形状で、無数の小さな穴が開けられている。正面には入口のような空洞が設けられ、内部を覘くと闇の中に無数の星のような光が見える。展示室外の資料コーナーからは屋外の「庭」に設置された《うさぎ観音》を眺めることができる。

「地平線」では、《ベルリン地平線》のシリーズや、漆黒の中に海を描いた《オーシャン》のシリーズが紹介されている。

メメント・モリ」では、焼亡した森のような図像《快楽の園》を背景に、朽ちていく女性像《メメント・モリ》が置かれている。扉だけが見える何も無い室内を描いた《インテリア(室内)Ⅰ》と合わせると、未来への期待や胎動をかすかに感じることができ、野焼きによる再生をイメージすることもできるようだ。

「コスミックスケープ」では、人と風景とが一体化したような大画面の作品が並ぶ。「自己問答」でイケムラが綴ったように、「10億年の記憶」で捉えれば、地球(the earth)は剛体ではなく流体である。《うねりの春》のシリーズはその絵画的表現であろう。

「エピローグ」では、《頭から生えた木》により、死と再生のテーマを改めて呈示している。