可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 石井早希子個展『限られた居場所』

展覧会『石井早希子個展「限られた居場所」』を鑑賞しての備忘録

GALLERY b.TOKYOにて、2019年2月11日~16日。

石井早希子の絵画展。

会場付近には《扉》や《MY HOUSE》が掛けられ、会場には展覧会タイトル「限られた居場所」を連想させる《入れない居場所》や《閉ざされた入口》といった作品が並ぶ。いずれも囲うことや閉ざすことがモティーフになっている。だが、表された壁や扉や柵は、完全に奥を見通すことを許さないようには描かれていない。囲ったり閉ざしたりするのは、そこに向こう側の世界が、そしてそこへの入口や通路が存在するからだろう。そこに可能性に踏込まなければ、フランツ・カフカの『掟の門』のように、門前で息を引き取ることになるだろう。

メインヴィジュルアルに採用されている《仮面》は、黒髪の女性の肖像画。白い短い線が茣蓙か畳表のように女性の顔を覆い、一切顔は見えない。人物の周囲にも白い線が無数に拡がっていて、顔の目の辺りに流れ込むかのようにいくつかの渦を描いている。その場の状況に合わせて、周囲になじむ顔を作り出す。画像修正による「盛り」の時代の人物像か、平野啓一郎らが紹介する「分人主義」的な他者とのつながりか。もっとも、画面に明るさはなく、状況肯定的な印象は受けない。現状に対するもっと冷徹な批評性こそを汲み取るべきだろうか。虚偽よりも感情に訴えるポスト・トゥルース的状況への揶揄というように。