可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『岬の兄妹』

映画『岬の兄妹』を鑑賞しての備忘録
2018年の日本映画。
監督・脚本は片山慎三。

港町の工場に勤める道原良夫(松浦祐也)は、母を亡くしてから自閉症の妹・真理子(和田光沙)の面倒を見ている。働きに出ている間に真理子が家を飛び出してしまうため、脚に縄を繋いだり、玄関に外から鍵をかけるなどしていたが、三度姿を消してしまった。友人で警察官の溝口肇(北山雅康)に探すのを手伝わせるが、見つからず、途方に暮れていると、夜になって見知らぬ男が真理子を車で連れて来た。真理子は「海鮮丼、海鮮丼」と食事をご馳走になったことを無邪気に喜んでいる。家へ連れ帰り、風呂に入れ、衣類を選択しようとして、真理子の服のポケットに1万円札が入っているのに気が付く。下着を確認すると精液が付着している。良夫は真理子を激しく叱りつけた。だが、それから間もなく、右足が不自由な良夫は工場での仕事を失ってしまう。ポケット・ティッシュに広告を入れる内職では家賃はおろか光熱費も払えない。ゴミを漁ることさえホームレスの縄張りがあって難しい。困窮した良夫は、1時間1万円で真理子に客を取らせることにするのだった。

和田光沙自閉症の真理子を実在するかのように演じきっている。真理子の突拍子もない言動に良夫が振り回されるように、観客も真理子によって物語の中へと引きずり込まれていく。
真理子の脚の間で、誰もが等価になる。サラリーマンもヤクザもいじめられている子も障碍者も。そして、そのとき、真理子自らもまた皆と対等になる。真理子が仕事に精を出すのはそのためであろうか。
障碍者に対する差別、障碍者の性、貧困、売春、独居老人、いじめなど様々な問題が盛り込まれ、痛切でありながら、なおエンターテインメントに踏みとどまっている。それを可能にしているのは、醜さとか汚さの持つ輝きのようなものを描き出す絵と音とが優れているからだろう。