可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 木下理子個展『空気の底』

展覧会『木下理子「空気の底」』を鑑賞しての備忘録
児玉画廊にて、2019年4月6日~5月18日。

木下理子の「ドローイング」を紹介する企画。但し、ここでの「ドローイング」は紙に描かれた線描のことではなく、素材や形態を問わず生み出された作品を指す。

《ゲーム》や《キャッチ》、《罠》といった狩猟を連想させるタイトルの作品がある("game"は「狩猟の獲物」、catchは「捕らえる」や「捕らえた獲物」を意味する)。狩猟者が「獲物を捕るには、獲物と狩猟が共に生きている環境を熟知し、獲物の意思を理解し、その行動を模倣してみなければばならない」(河野哲也『境界の現象学 始原の海から流体の存在論へ』(筑摩選書)p.87)。その名も《ミミクリー》(「模倣」)と題された作品が展示されているのみならず、会場の隅には《空気の底を歩く人》と題された小さな人形(ひとがた)が置かれている。これは他の作品でも多く用いられているアルミフォイルを素材としている。鑑賞者は作品への同化を求められている。「狩猟者はオルテガ・イ・ガセー的に言えば、『宇宙的な』関心の持ち主であり、いずれに縛られることなく、どこにでも向かい、どこにも向かわず、環境の全体を把握しようとする。そのなかに獲物と自分自身とがいる。一点に注意を向けてしまうと、獲物はどこにひそんでいるか、何をしようとしているかを見破ることことが難しくなる。それゆえに、どこか一方に気を向けてはならない」(河野・前掲書p.97)。展示室内には展示室と同化するような作品が並ぶ。そして、中に目を引く作品に籐製の《新しい歩行法》があるが、これは無限大を表す記号∞を4つ重ね合わせながら並べたような作品であり、これには、《方向器》や《舵》と題された作品と共鳴しつつ、「どこにでも向かい、どこにも向かわず」が表現されている。

アルミフォイルやアルミテープで作られた、格子や交線のような幾何学的な形や松葉や草のような植物をモチーフとするような形は、無造作にも見えることと相俟って、志野や織部といった焼きものに見られる吊るしや垣根の模様を想起させる。それら焼きものの模様は、境界や結界、神の依り代を表すとも考えられているが、木下の作品にも《柵》と題された作品がある。