可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『現代美術の室礼 村山秀紀の見立て』

展覧会『現代美術の室礼 村山秀紀の見立て』を鑑賞しての備忘録
美術画廊X(日本橋髙島屋本館6階)にて、2019年11月6日~25日。

表具師・村山秀紀の作品展。年末年始の室礼をテーマに、吉祥文様の古裂、クリスマスの栞、切手、トランプなどの骨董を本紙に見立てての表装作品と、森村泰昌の写真や、束芋や伊庭靖子らの絵画など、現代美術作品の表装とを合わせて展観。さらに束芋のアニメーション作品《糸口心中》を村山秀紀の手になる巻子に投影した上映も行われている。

骨董の表装では、冒頭に掛けられた、イギリスの古い栞を表装した作品が目を引く。額のような中に栞が収められているのだが、マット(?)から浮くように栞が固定されているのだ。額のような部分と栞とがともにマット(?)に影をつくり、浮遊感を生んでいる。栞は、読書の中断地点へと飛ぶための道具であり、また読書は日常から物語への跳躍である。ドラえもんよろしく現実世界から数ミリ浮き上がり、四次元の世界へと手を伸ばそう。

現代美術作品の表装では、伊庭靖子の絵画の軸装が印象に残る。作中の壺を覆うカーテンに擬態するかのように、掛軸の右の柱が絵画を覆うヴェールを装っている。静かな作品の持つ襞を柔らかく包むもう1枚の襞が、作品の奥行きを深めている。

束芋《糸口心中》は、お初と徳兵衛とを蝶に、柵を虫籠に擬えたアニメーション。三味線の弦と撥とに追い立てられるように露天神の森へと追い込まれ、蜘蛛の巣の様な松の並木に絡め取られる。蝶が巻子を超えて舞う姿には来世への飛躍が仮託され、∞を描くように舞う姿には常しえに語り継がれる物語が象徴される。