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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 カミーユ・アンロ個展『蛇を踏む』

展覧会『カミーユ・アンロ 蛇を踏む』を鑑賞しての備忘録
東京オペラシティ アートギャラリーにて、2019年10月16日~12月15日。

カミーユ・アンロの個展。本に触発されたいけばなの連作「革命家でありながら、花を愛することは可能か」、最新のドローイングの連作「アイデンティティ・クライシス」、世界の秩序と多義性とを表わす大規模なインスタレーション《青い狐》、創世神話をテーマにした映像作品《偉大なる疲労》の4つの展示から構成される。

哲学書・歴史書から小説・手紙に到る和洋の書物に触発されて立てられたいけばな「革命家でありながら、花を愛することは可能か」。《火山の下》(マルカム・ラウリー)のリュウゼツランにエンジェルヘアー、《奇跡の武器》(エメ・セゼール)のオウギヤシとプロテア、《サランボオ》(ギュスターヴ・フローベール)のチャボトウジュロにあじさい、《美しさと悲しみと》(川端康成)のマオランに菊など、力強い葉で花などを際立たせる作品、《人間不平等起源論》(ジャン・ジャック・ルソー)のワックスフラワーや、《しあわせな日々》(サミュエル・ベケット)のビーチグラスなど、束ねて見せる作品などに作者の傾向を感じた。《チャタレー夫人の恋人》(D.H.ロレンス)のベッドのバネにアンスリウムを絡ませた作品や、《永年の愛を死の彼方に》(フランシスコ・ゴメス・デ・ケベード)の火山岩を細長い花器に載せた作品などユニークな作品もある。《幻のアフリカ》(ミシェル・レリス)のレッドジンジャーとガーベラを三角形の花器に挿した作品は「相変わらずいらいらした気分で帰った。寝る前にムカデを一匹殺した。」という引用の殺されたムカデを、《人間の条件》(ハンナ・アレント)の蓮を2つの直方体の花器それぞれに添え、なおかつ一方に曲げた針金を立てた作品は「しかし、善への愛から生まれる活動力と知への愛から生まれる活動力が似ているのは、ここまでである」との引用部を直接的に表現していたように思う。

巨大インスタレーション《青い狐》は、壁面と床とを青で塗り込め、4つの壁面を「最善律:はじまり」、「連続律:ひろがり」、「充分理由律:限界へ」、「不可識別者同一の原理:消滅へ」に区分して、紙や本、写真やポスター、玩具やオブジェなど様々なものが置かれている。キリスト教をはじめとする創世の物語を、関連するイメージを表示しながら、音楽にのせて語るポップな映像作品《偉大なる疲労》と対になっているらしいが、ライプニッツを下敷きにしているというこのインスタレーションは取っつきにくい。「アイデンティティ・クライシス」と題されたドローイングのシリーズでは、服に顔を表わした《どれにしよう》や《休憩中の顔》など剽軽とした魅力を示しており、仙厓義梵のような禅僧よろしく「公案」としてのインスタレーションと考えて頭をひねるのがよいのかもしれない。