展覧会『ゴッホ展』を鑑賞しての備忘録
上野の森美術館にて、2019年10月11日~2020年1月13日。
展示は2階の第1部「ハーグ派に導かれて」と1階の第2部「印象派に学ぶ」の2部構成。
第1部「ハーグ派に導かれて」は3つのセクションで構成。「独学からの一歩」では、いずれもゴッホの手になる6点、油彩《馬車乗り場、ハーグ》(1881-83)、水彩《雨》(1882頃)、水彩《待合室》(1882)、リトグラフ《永遠の入口にて》(1882)、鉛筆他《疲れ果てて》(1881)、チョーク他《籠を持つ種まく農婦》(1881)を展示。続く「ハーグ派の画家たち」では、ゴッホが指導を受けたアントン・マウフェをはじめ、ハーグに集った画家たちの作品を紹介。アントン・マウフェ3点、マティス・マリス4点、ヤン・ヘンドリック・ウェイセンブルフ2点、ヨゼフ・イスラエルス4点など計18点で構成。「農民画家としての夢」では、鉛筆他《ジャガイモの皮を剝くシーン》(1883)、油彩《農婦の頭部》(1885)、リトグラフ《ジャガイモを食べる人々》(1885)、油彩《器と洋梨のある静物》(1885)、《鳥の巣のある静物》(1885)など計12点のゴッホの作品を展観。
第2部「印象派に学ぶ」は4つのセクションで構成。「印象派の画家たち」では、まず、アルフレッド・シスレー、カミーユ・ピサロ、ポール・シニャックらの風景画を紹介。続いて、アドルフ・モンティセリ(計3点)、さらに、ポール・セザンヌ、クロード・モネ(《花咲く林檎の樹》など3点)、ピエール=オーギュスト・ルノワール(《髪を整える浴女》など2点)、など計13点を展示する。「パリでの出会い」では、いずれもゴッホの作品3点、油彩《花瓶の花》(1886)、チョーク他《ブリュット=ファンの風車》(1886)、油彩《パリの屋根》(1886)を紹介。「アルルでの開花」では、《パイプと麦藁帽子の自画像》(1887)、《タンギー爺さんの肖像》(1887)、《麦畑とポピー》(1888)、《サント=マリー=ド=ラ=メールの風景》(1888)などゴッホの油彩9点が紹介される。最後のセクション「さらなる探求」では、油彩《サン=レミ療養院の庭》(1889)、油彩《糸杉》(1889)、油彩《薔薇》(1890)など8点のゴッホの作品を展観。
印象派の作家たちやパリに出た後のゴッホの明るい画面が並ぶ第2部が、暗い画面の作品でまとめられた第1部と強いコントラストをなしている。
本展の白眉は、ゴッホの《糸杉》と《薔薇》の2点。《糸杉》は、画面下部の草(灌木?)から糸杉の葉、さらに雲までが燃え立つようにうねっている。昼日中の月の円弧も萌える緑や沸き立つ雲と相似をなし、躍動感のある描写で在りながら落ち着きも感じられる。《薔薇》は壺に活けた白薔薇を描く。花の白と葉の緑との組み合わせを背景にも用いて、やや青みがかった淡い緑の地に白が流水のような線で描き込まれている。薔薇の花は様々な向きや表情で描かれ、壺からこぼれ落ちたものや、壺に活けられていなかったものまでも画面に含まれている。多様なあり方を全て受け容れる、優しい雰囲気が、色遣いと相俟って、醸し出されている。