可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 スクリプカリウ落合安奈個展『mirrors』

展覧会『スクリプカリウ落合安奈「mirrors」』を鑑賞しての備忘録
Bambinart Galleryにて、2019年11月30日~12月15日。

スクリプカリウ落合安奈の、動物園で見た猿をモティーフにした絵画を紹介。

一匹ずつ肖像画のように描かれた猿の絵が並ぶ。アクリル絵の具に加え墨を用いているが、伝毛松《猿図》のような色味はなく、画面はモノクロームで統一されている。また、牧谿猿猴図》のように樹木などの具体的な景物が描き込まれているわけでもない。絵の具が垂れ落ちたり、グレーの背景ににじむように描かれた猿の姿には、水墨画ならむしろ、等伯の《松林図屏風》を連想させるものがある。作者の寄せた「猿の中に人をみて、人の中に猿をみる」というコメントが冒頭に掲示されているが、相笠昌義の《ゴリラを見る人》のように、ゴリラから見返される人間の姿が直接描かれている訳でもない。
ところで、エドゥアール・マネは、スペイン旅行でベラスケスの絵画を目にし、《道化師パブロ・デ・バリャドリード》を「この素晴らしい作品群のなかで最も驚くべき作品、おそらくこれまでに描かれた最も驚くべき絵画」として挙げ、「背景が消えている。黒一色の服を着て生き生きとしたこの男を取り囲んでいるのは空気なのだ。」と手紙に記した(三浦篤エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』KADOKAWA/2018年p.66-37)。そのベラスケスの影響はマネの《笛吹き》等に顕著に見られる(同書p.74-75)。作者の猿の灰色の背景にも、猿を取り囲む空気が描き出されている。そして、ベラスケス、マネの作品と作者の作品との連関は、空気を描く背景に止まらない。二人の画家の名が呼び起こすのは、鏡のイメージだ(ベラスケス《ラス・メニーナス》、マネ《フォリー=ベルジェールのバー》)。二人の先達は直接鏡を描いたが、作者はタイトルに鏡(mirrors)を据えた。墨に五彩あり。モノクロームの猿の姿に、鑑賞者は自らの姿を多様に投影することができるだろう。