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芸術鑑賞の備忘録

映画『私のちいさなお葬式』

映画『私のちいさなお葬式』を鑑賞しての備忘録
2017年のロシア映画
監督は、ウラジーミル・コット(Владимир Котт)。
脚本は、ドミトリー・ランチヒン(Дмитрий Ланчихин)。
原題は、"Карп отмороженный"

73歳の元国語教師エレーナ(Марина Неёлова)は、循環器内科医(Александр Безруков)から心電図を示され、心臓の機能不全により血流が止まる可能性があるとの所見を告げられる。エレーナが率直な見解を糺すと、いつその事態が起きてもおかしくないという。病院からの帰り、釣りを終えて帰途についたワレーラ(Артём Лещик)に出くわす。バケツの中で暴れる鯉を打ちのめすワレーラを制止すると、鯉をバケツごと渡される。エレーナが家にたどり着くと、隣家のリュドミラ(Алиса Фрейндлих) が大音量の音楽をかけてバイクで帰宅した孫のパーシャ(Антон Шпиньков)に悪態をついているところであった。エレーナは鯉をビニール袋に入れて冷凍庫にしまう。間もなくして、エレーナも発作を起こし倒れてしまう。5年間音信不通だった息子オレク(Евгений Миронов)が病院を訪れ、エレーナを車に乗せて連れて帰る。運転中にも仕事の電話を受け、秘書と忙しなくやり取りするオレク。家に到着して食事を食事を用意しようというエレーナとの会話の最中にも電話があり、結局、オレクはすぐさま仕事に戻ってしまう。エレーナは、息子には自分が斃れた際に葬儀を挙げる余裕もなさそうだと悟り、自ら葬式の手はずを整えようと必要な準備を考える。その晩、物音で目を覚ましたエレーナは、オレクに食べさせようと冷凍庫から取り出した鯉が台所で跳ねているのを知る。あわててたらいに水を張り、鯉を放つ。翌日、エレーナは計画を実行に移し始める。

 

豊かな自然と古色蒼然としたたたずまいの建物、そして顔見知りの人たちに囲まれた閉塞感のある田舎の環境で、パンクの若者よりも遙かにぶっ飛んだ行動を淡々とこなしていくエレーナと、そのエレーナに感化される周囲の人たち。エレーナとリュミドラの掛け合いをはじめ、登場人物それぞれとエレーナとのやり取りの中にはおかしさや温かみがそっと添えられている。
エレーナの子煩悩ぶりがオレクの人生に影を差したであろうこともしっかりと描かれているのも良い。
鯉のバカンス。