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芸術鑑賞の備忘録

映画『母との約束、250通の手紙』

映画『母との約束、250通の手紙』を鑑賞しての備忘録
2017年のフランス・ベルギー合作映画。
監督は、エリック・バルビエ(Éric Barbier)。
原作は、ロマン・ガリ(Romain Gary)の小説『夜明けの約束(La Promesse de l'aube)』。
脚本は、エリック・バルビエ(Éric Barbier)とマリー・エイナール(Marie Eynard)。
原題は、"La promessa dell'alba"。

 

レズリー・ブランチ(Catherine McCormack)が「死者の日」の喧噪の中、プエブラのホテルに夫のロマン・ガリ(Pierre Niney)を訪ねる。部屋をノックしても反応がないため、フロントのスタッフ(Preciado Rodriguez)に鍵を開けてもらうと、ロマンが倒れている。ロマンはここでは死ねないからメキシコシティへ連れて行けと言い張り、やむを得ずレズリーはロマンとともにタクシーでメキシコシティを目指す。レズリーは眠る夫が手にするファイルに原稿を見つけ、目を通す。それは彼の自伝であった。
ロシア出身のユダヤ人ニーナ・カチェフ(Charlotte Gainsbourg)は、息子のロマン(Pawel Puchalski)を連れてヴィルニュスに移り住み、帽子の訪問販売で生計を立てていた。ある日、ニーナが雇い入れているアニエラ(Katarzyna Skarzanka)が帰宅したロマンにココアを与えていたところ、突然警官(Piotr Cyrwus)の訪問を受ける。違法な物品を取り扱っているとの通報があったという。仕事から帰ってきたニーナが、令状もなく家宅捜索するのは不当だと訴えるも、警官たちは室内を荒らしまわって出て行く。ニーナはロマンを連れて部屋を出ると、アパルトマンの全戸に向かって、誰が讒言したのかと声を張り上げる。そして、息子は芸術家・外交官・軍人として将来大物になるのだと宣言すると、騒ぎに姿を現した人々に二人は嘲笑されるのだった。ロシアで女優をしていたというニーナは息子にロシアの冒険映画を見せると、かつて主演俳優と舞台で共演したことがあるといい、息子をそのスターに擬えさせた。男が戦うのは女と名誉とフランスのためだけだと母親から教え込まれたロマンは、1つ年上の9歳のヴァレンティーヌ(Klaudia Trafalska)に恋心を抱く。愛情を表現しようとヴァレンティーヌの無理難題に答えているうちに、靴を囓って医師(Janusz R. Kowalczyk)に診察を受ける羽目になり、ニーナに事態を知られてしまい、絶縁を迫られるのだった。ヴァイオリニスト(Zsigmond Lázár)のもとにロマンを連れていったが早々に芽がないことに気付かされたニーナは、作家にしようと企て、執筆を励ますと同時に、社交のために必要な素養を身につけさせることに必死になった。ニーナは行商のようなことをしていては埒が明かないと、一旗揚げるための博打に出る。かつての芝居仲間(Xavier Schliwanski)をフランス人デザイナーのポール・ポワレに仕立て、彼を招待した開店イヴェントを開催したのだ。この企みは成功し、一躍人気店となるが、裕福な顧客ポドウスカ婦人(Marta Klubowicz)からは代金を踏み倒された挙げ句、取り立てにいくとユダヤ人は金の話題ばかりだと追い払われる。遂に破産してしまったニーナは、かねてから憧れてきたフランスで再起を図るべく、アニエラと別れ、息子を連れてニースへと向かうのだった。

 

溺愛する息子を大物に育て上げようとあらゆる手を尽くす母親と、その母親の過剰な期待にときに抗いながらも応えようとする息子の奮闘する姿を描く。差別に苦しめられながらも不屈の魂で銃弾を掻い潜る戦闘機のような母親をCharlotte Gainsbourgが熱演。観客をねじ伏せて共感させてしまう。また、母親の呪縛に苦しめられ、ときに踏み外しながらも、成功への階段を徐々に上っていく青年をPierre Nineyが魅力的に演じている。
前半はポーランド語圏が舞台のため、ポーランド語で物語が進行。(ちなみに、ポーランド語の映画では、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『COLD WAR あの歌、2つの心(Zimna wojna)』(2018年)がお薦め。)
ニーナの絶大なフランスかぶれは何に由来するのか。ニーナがロシア(帝政ロシア)出身だからなのだろうか。例えば、『アンナ・カレーニナ』などではときにフランス語の台詞が交えられている。