可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 増田信吾・大坪克亘個展『それは本当に必要か。』

展覧会『増田信吾+大坪克亘展「それは本当に必要か。」』を鑑賞しての備忘録
TOTOギャラリー・間にて、2020年1月16日~3月22日。

建築家ユニット「増田信吾+大坪克亘」が自作を紹介する企画。設計した作品を見せることと同じくらいに、その設計を導くことになった発想を紹介することに重きを置いている。そのため、まず、大きな模型とそれを生み出すに至った思考を「つぶやき」やイラストで紹介する"Adaptation"のセクションが用意され(3階を中心に一部4階も)、その上で作品が置かれる具体的な場の状況説明と適用状況を敷地模型などで紹介する"Atitude"のセクションが設けられる。さらに地下1階(セラトレーティング東京ショールーム)では永井杏奈の写真によって実際の作品の設置状況が紹介されている。

最初に手がけた《ウチミチニワマチ》(2009年)という住宅の壁の設計の経験から、直接的に空間(建築)を造るのではなく、空間(建築)の前提となる場を考えることで空間(建築)の固定観念を揺るがす発想に至ったという。
《リビングプール》(2014年)の設計では、積雪地帯の家屋の高い「基礎」が視界を地面へと向かわせていた。積雪時に対処する建物が上から目線を生むという問題に気付いたのだ。そのため、あたかも謙るように基礎部分の中に床面を下げることで、視線を上向きに換え、お天道様を仰ぐことを可能にしたのだ。謙譲の心の導入が場への歩み寄りを可能にしたということだろうか。
《躯体の窓》(2014年)では、窓が境界面の存在であることに着目し、窓を光や風を外部から取り入れるための装置という内部からの発想で考えるだけではなく、「外部にとっても必要な窓があってもいいのではないだろうか」と考えたという。岡本太郎もグラスの底に顔があってもいいじゃないかと言っていた。窓が庭を明るくするための反射板という外部環境のための装置であって何の問題があろう。
一番面白かったのは《始めの屋根》(2016年)。敷地の中に2階建ての母屋と、庭を大小2等分にする形で離れが存在していた。その場のスケールを更新しようと、母屋と離れとの間に既存の1階部分よりも高い屋根を設置したのものである。この屋根に向かって地面から階段が伸びている。1階の屋根に登れる高さで切られることなく《始めの屋根》の天井まで続いている。もし階段が途中で切られていたら、階段が既存のスケールを追認してしまい高い天井による場のスケールの更新は不十分に終わってしまったであろう。新たな高さの屋根まで延ばされた階段は想像を誘う補助線として働き、スケールの更新を完遂させたのだ。何より、この延長された階段の一種の違和感が《始めの屋根》の忘れがたい印象を生んでいる。

既存の基準を更新していく発想の数々が刺激的な好企画。建築の専門用語などはほとんど登場しないため、建築の素人にも楽しめるのが嬉しい。