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芸術鑑賞の備忘録

TVドラマ『レンタルなんもしない人』第3話

TVドラマ『レンタルなんもしない人』第3話を鑑賞しての備忘録
監督は、タナダユキ
原作は、レンタルなんもしない人(森本祥司)『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』。
脚本は、政池洋佑。

大学生の島袋香奈(福原遥)が友人のヒロミ(柳美稀)とお茶をしていると、突然明後日の映画を見に行く約束をキャンセルされる。恋人がディズニーランドに連れて行ってくれることになったという。社会人の相手だからとヒロミを気遣い、調度別の人に誘われていたところだったとヒロミに告げる。だが実際にはそんな誘いなどなく、香奈は誕生日を一人過ごすことになってしまった。傷心の香奈はツイッターで「レンタルなんもしない人」のサーヴィスを知る。21歳の誕生日を一人で迎えるのは寂しい。思い詰めた香奈は、日付が変わるタイミングで家でお祝いをして欲しいと「レンタルさん」に依頼する。翌日、香奈は自分の誕生日のためのケーキを買いに行く。ホールを選び、躊躇った末、プレートに名前を入れてもらった。その晩、約束の23時、時間通りに「レンタルさん」(増田貴久)が家を訪ねてくる。

 

グループLINEの返信では、他の人とかぶると手を抜いたと思われ、逆に全く違う内容だと空気を読めないと思われるので、「同じだけど少し違う」を目指さなければならないから難しい、と香奈は「レンタルさん」にSNS疲れを告白。そして、誕生日ケーキの写真をアップすることに躊躇いを感じた香奈は、見た目通り友達が少ないという「レンタルさん」に、誕生日の写真をツイッターに投稿するか尋ねる。すると、「レンタルさん」は以外にも投稿すると回答する。
香奈は友達づきあいにおける同調圧力に疲弊気味。そのためSNSに対してもネガティヴな眼差しを向けている。だが、「レンタルさん」は、「冬暖夏涼」の地抗式のヤオトン(窑洞)のような存在。物事に対して常に一定の温度を保っている(例えば、「自分の寂しさと他人の寂しさとは比較できませんから」と諦観した科白から推察できる)。そのため、香奈が冷めているとき、「レンタルさん」に熱を感じることになるのだ。香奈は「レンタルさん」と接することでその事実に気が付き、再びSNSや友達の良い面に目が向けられるようになるのである。

見ず知らずの「レンタルさん」を香奈が自宅に招くという設定は、少々突飛な発想かもしれない。だが、友人に嘘をついてまでドタキャンを気にかけさせまいとする姿勢、「レンタルさん」を上座に座らせる気遣い、さらに話し方やちょっとした仕草から、香奈の真面目で周囲に気を遣い過ぎる性格が伝わる。それだけ香奈が精神的に追い詰められていたと解釈することもできそうだ。
「レンタルさん」が訪ねてくる直前、冷蔵庫に入れておいたケーキを香奈が箱を開けてまで確認する。あのシーンをどうやって思いついたのだろうか。香奈が、自分や、自分のとった行動を確認し、意を決する儀式のように見えた。
スマホの充電のやり取りを通じて、依頼者との関係や時間の使い方を調節し、なおかつスマホを出しておくこと(タイマーが設定してある)を「レンタルさん」が仕組んでいる。
香奈が「レンタルさん」を見送る際に「ありがとうございました」と言って(声が小さくて)伝わらないと思ってもう一度言い直すところも良い。

福原遥が香奈をうまく造型。
増田貴久が「レンタルさん」の実在感を見事に生んでいる。「レンタルさん」を支える妻・森山沙紀(比嘉愛未)、そしての夫妻の関係も良い。
第3話は監督タナダユキの映画『ふがいない僕は空を見た』に通じるものがあった。なお、映画もいいが原作(窪美澄の小説)もいい。

「同じだけど少し違う」を目指す群像というと、五月女哲平の《We #1》を思い出す。