映画『ディヴァイン・フューリー 使者』を鑑賞しての備忘録
2019年製作の韓国映画。129分。
監督・脚本は、キム・ジュファン(김주환)。
撮影は、チョ・サンユン(조상윤)。
編集は、キム・ソンミン(김선민)。
原題は、"사자"。英題は、"The Divine Fury"。
パク・ヨンフ(이찬유)が台所でネギを刻み卵を溶いて卵焼きを作っている。ヒゲを剃っている父キョンサ(이승준)にご飯が出来たと告げる。二人が食卓を囲む。卵焼きはかなり塩が利いていた。ヨンフはご飯を用意したから酢豚を食べさせてくれとねだる。味噌汁はお前が作ったんじゃないし、そもそも卵を買ってきたのは俺だと首を縦に振らないキョンサ。それでも必死に訴えるヨンフに遂に折れる父。二人は教会の礼拝へ。キム神父(심희섭)が祈りは神に必ず受け入れられると説いている。中華料理店へ行き、キョンサがジャージャー麺と酢豚を注文する。母さんのことを助けてくれって祈らなかったの。もちろん祈ったさ。お前が元気に育つよう願った母さんの祈りの方が強かったんだ。夜、キョンサが制服に着替えて出て行く。自動車の飲酒検問の当番だった。一台の車が猛スピードで検問所に通りかかった。停止はしたもののスモークフィルムを貼った窓は閉じたままだった。後輩を制してキョンサが警棒を持って運転席に近付き、窓を開けるよう促す。ようやく窓を開けたドライバーは車を急発進させる。暴走する車にしがみついたキョンサは振り落とされる。ヨンフは祖母(백낙순)とともに病院へ。重態のキョンサを前に泣き崩れる祖母。ヨンフは慌てて教会に走り、祈りを捧げる。姿を見せたキム神父に訴える。父が危ないんだ。神様は祈りを聞き入れてくれるんだよね。もちろんだとも。キム神父はともに祈りを捧げる。家に戻って床についたヨンフのもとにキョンサが現れる。とにかく正しいことをするんだ。いつもお前のそばにいる。目を覚ましたヨンフは、父の姿は夢だと知って悲嘆に暮れる。キョンサの葬儀。警察官たちが棺に向かって敬礼をしている。そこへキム神父がやって来る。思わずヨンフは磔刑のキリスト像をつかみ、神父に向かって思い切り投げつける。神様は僕の願いを聞き入れてくれなかった。
20年後。総合格闘技のウェルター級のチャンピオンとなっていたパク・ヨンフ(박서준)は、カリフォルニアで行われる防衛戦を17戦無敗のまま迎えた。リングに上がり、相手選手の背中にキリストの磔刑図のタトゥーを見つけたヨンフは、復讐せよとの自らの声に衝き動かされる。試合開始から間もなくして相手選手に馬乗りになると、ジャッジに停められるまで繰り返し顔を殴りつけていた。帰国の途についたヨンフは、機内で右手が血だらけになっていることに気が付く。医師(류경수)は睡眠中の動作による刺し傷だろうが念のために精密検査を行うという。帰宅したヨンフは悪夢にうなされ、目を覚ますと手当をした右手から再び激しく出血していた。付き人が、姪のホンジン(조은형)が血の涙を流すようになって失明し、今はムーダンをしているので、もし怪我の原因が不明であれば訪れてみてはと助言する。巫術など信じないと一蹴するが、医師から精密検査でも異常が見つからなかったと説明され、やむを得ずヨンフはホンジンのもとを訪れる。ホンジンは、ヨンフに数多くの悪霊が取り憑いていることや、十字架に対して強い執着があることを指摘した上で、自宅の南にある教会へ向かうよう告げる。ヨンフが車で教会に乗り付けると、辺りには夥しい数のカラスが飛び交っていた。教会の中では、アン神父(안성기)がチェ神父(최우식)ともに、悪霊に取り憑かれた男(이승희)と格闘していた。
父を救って欲しいという祈りを聞き入れなかった神に対する憾みを抱き、悪霊に取り憑かれつつあったパク・ヨンフ(박서준)が、エクソシストのアン神父(안성기)に出会い、彼に「父親」を見出すことで、信仰を取り戻し再生していく姿を描く。
ヨンフの右手からの原因不明の出血を医師が治療できないのは、ヨンフの抱える問題（心理的問題であり、信仰上の問題でもある）を科学では解決できないことを象徴している。
ヨンフの部屋で、ヨンフとアン神父とがジャージャー麺を食すことが、子供時代に父子で出かけた中華料理店の再現となっており、ヨンフに父親の再来の効果を与えている。酢豚ではなくジャージャー麺を食すことで、父親の不在の乗り越え（自らが父親の立場に立つ）をも示すのだろう。ちなみに、そのジャージャー麺を配達するちょっとおかしな店員(박진주)も印象に残る。
聖ヒエロニムスを描いた（と思われる）絵葉書が印象的に登場する。聖ヒエロニムスはライオンの脚に刺さったトゲを抜いてやったと言われ、聖ヒエロニムスとライオンとはセットで画題となることがある。徳の高いアン神父を聖ヒエロニムスに、凶暴な格闘家ヨンフを獅子に見立てた図像と考えられる。それを裏付けるのは、本作の原題"사자"である。"사자"は「使者」とともに全くの同音（同字）で「獅子」を意味するからだ。
