可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 天明里奈個展『花の咲く前に』

展覧会『天明里奈「花の咲く前に」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリー椿にて、2020年9月5日~19日。

乾漆技法による立体作品を制作している天明里奈の個展。

《before blooming》は、頭頂から顔を通って首筋に至るまで枝垂れが描かれた、目を瞑り俯く中性的な人物の頭像。頭部右側には、芽の表現であろうか、ホイップクリームのような渦巻く形が延びる。そちら側に頭がやや傾いでいて、その傾きが、発芽など植物がまさに生長している様を強く印象づける。《in full bloom》では、《before blooming》同様の頭像の左手にもう一つの頭像が接している。首の下部と頭部とで接着する様子は、裂して増殖しているようにも見える。《before blooming》と比べ、頭部がやや仰向きになっていることで、花が開くイメージを作っている。対とすることで、陰陽二気が調和した秩序を象徴しているのかもしれない。
《FiRE》は、トルソ(胴)に加え、炎を模した形が頂部から延びる頭部を持つ中性的な人物像。炎の部分は2つのうねる角のような造型で、メタリックな赤が淡く彩色されている。竈の焚口の働きを担うかのような、胸部の裂け目に陰裂を見るなら、炎の角は陽物と捉えることができ、やはり陰陽の表現と解することもできよう。
《肌と云う名のⅠ》・《肌と云う名のⅡ》は、いずれも、裳裾のような下部を持ち、そこから上へトルソ、首、頭部、髪と連なっている。裳裾は風を孕んで大きく膨らみ、髪も風に吹かれて靡いている(Ⅰでは前方からの風を、Ⅱでは左側からの風が表されている)。裳裾から胴、首、頭部・髪に至るまで1枚の「肌」で滑らかに覆われている。顔や胴の生物的な形と、裳裾や髪の幾何学的な形とが、「肌」で統一されている。《肌と云う名のⅠ》・《肌と云う名のⅡ》では、《before blooming》・《in full bloom》・《FiRE》と対比したとき、陰陽(男女)や生物・無生物といった対立を超克して、全ては地続きの1枚の世界に織り込まれているような感覚が生じる。
人物として表されていること、目を瞑る表現、対の表現、トルソの表現やタイトルなどに、擬人法、反復法、対句、省略といった詩の表現技法との共通点も見出すこともできそうだ。