可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』

映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』を鑑賞しての備忘録
2019年製作の韓国映画。108分。
監督・脚本は、キム・スンウ(김승우)。
撮影は、イ・モゲ(이모개)。
編集は、キム・チャンジュ(김창주)。
原題は、"나를 찾아줘"。

 

干潟の中を走る直線道路。一人の女性が海に向かって覚束ない足取りで進んでいく。顔に怪我を負っており、表情は虚ろ。彼女がふと何かに気が付き、そちらに顔を向ける。
ソウルにある病院の救急外来。意識不明の患者が運ばれてくる。担架から診察台に移された患者にアドレナリンが投与され、AEDの準備が進められる。対応するスタッフの一人が看護師のソ・ジョンヨン(이영애)。心配そうに見つめる少年の姿に気が付き、ジョンヨンはカーテンを閉める。
バックドアガラスに「子供を探しています キム・ユンス」という文字と電話番号、子供の顔写真が貼られた車。ジョンヨンが助手席に座って、運転する夫のキム・ミョングク(박해준)から、コソンに捜索に行った話を聞いている。ミョングクは数学教師をしていたが、6年前に息子が行方不明になって以来教職を離れ、捜索中心の生活を送っていた。ジョンヨンはそんな夫のことも気懸かりだった。コソンで農業をやるのもいいな。農業の経験なんてあるの? ユンスがいれば出来ないことなんてないさ。二人は行方不明になった後に発見されたジヌク(정준현)のもとを訪れる。ちょっと照れ屋のジヌクが迎えてくれた。そんなジヌクに二人はユンスの友達になって欲しいと声をかける。ジヌクは障害があったため、名前は言えたにも拘わらず、4年間も病院に収容されたままだったと母親(김국희)が悲痛に訴える。そんな母親に優しくキスをするジヌク。思わずジョンヨンは私にもキスして欲しいとねだってしまう。
ある日ミョングクが家に戻ると、ジョンヨンが食卓に座っていた。早かったのね。食事は? まだだよ。出前を取ろう。外食ばかりじゃない。何か作るけど何がいい? キムチチゲと目玉焼き。ジョンヨンは冷蔵庫を開いて確認し、それから米櫃を見る。米が無かった。出前にしようとミョングクが声をかけるが、妻は買いに行くと出かけようとする。ミョングクが妻を引き留める。ジョンヨンは思わず嘆きの言葉を漏らす。育児に追われていた頃、1週間だけユンスから解放されることを願ったことがあったの。息子を捨てたのと同じよ。忙しかったんだから仕方がないさとミョングクが慰める。
ミョングクは行方不明家族捜索の会の事務所に向かう。運営しているスンヒョン(이원근)には「行方不明者」としての過去があった。自分は実の両親に捨てられたとずっと憾みを抱いていた。立派な人間になって彼らの存在など関係が無かったと証明して復讐してやろうと誓っていた。ところが、大学を出て、両親を探すと、すぐに叔母夫婦から連絡があった。実の母は僕が行方不明になったことを悔やんで自殺し、そのショックで実の父は癌で亡くなったと知らされた。だから遅すぎるなんてことはない。ところで講師募集の話はどうなった? 何日か前にも連絡がありましたから、まだ大丈夫ですよ。ミョングクはスンヒョンにこれまでの捜索の経過を記したファイルを託す。
ミョングクはスンヒョンのもとに入った数学講師募集に応じ、学校を訪れる。担当者(황재열)はミョングクの経歴やルックスに満足し、人気の先生になりますよと歓迎する。だが、ちょうどそのとき、ミョングクのスマートフォンにはユンスが見つかったとの情報が寄せられており、ミョングクは上の空になっていた。ミョングクは早速、情報を頼りにユンスの目撃場所へと車を走らせるのだった。

 

行方不明になった息子を探す母親の物語。脚本が良く、最後まで緊張感のある展開が続く。
母親ソ・ジョンヨンを演じる이영애が素晴らしい。だが彼女の存在を際立たせるのは、子供たちを搾取・虐待する人々、そして権力を使って彼らに寄生する警察官(유재명)の非道ぶりだ。それは韓国映画らしい暴力描写によって強調されるだろう。さらに、味方であることを強調する人物や、意外な存在までもが、彼女から搾取し、彼女の運命を狂わせる。
「悪役」に吐かせる台詞などを通じて、観客に簡単にカタルシスを与えようとしない工夫も見事。