可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『オン・ザ・ロック』

2020年製作のアメリカ映画。97分。
監督・脚本は、ソフィア・コッポラ(Sofia Coppola)。
撮影は、フィリップ・ル・スール(Philippe Le Sourd)。
編集は、サラ・フラック(Sarah Flack)。
原題は、"On the Rocks"。

 

結婚披露宴。新婦のローラ(Rashida Jones)を新郎のディーン(Marlon Wayans)が会場から連れ出す。螺旋階段を上ってディーンが向かったのは誰もいないプール。ディーンが先にプールに入ってローラを待っている。ドレスを脱ぎ捨て、ベールを被ったままローラはプールへと飛び込む。
ニューヨークのアパルトマン。ローラは2人の娘マヤ(Liyanna Muscat)とテオ(Alexandra Mary Reimer/Anna Chanel Reimer)の身支度をしながら、出勤前のディーンに確認を取る。別荘の使用料の支払いが必要なんだけど。店の予約は木曜日それとも金曜日? もう質問はおしまいかいと冗談交じりに尋ねてディーンが出ていく。テオに口をゆすがせたローラは、テオをベビーカーに乗せるとマヤを小学校に慌てて連れて行く。課題図書は読んだの? うん。わたしもよんだとテオが口を挟む。小学校の入口でにビーカーを停める。知り合いの母親に出会うたび交わされる挨拶とちょっとした会話。教室までマヤを送り届け帰ろうとしたところでヴァネッサ(Jenny Slate)に会う。彼にテキストメッセージを送っちゃうの。逆効果だって分かってるの、だけど…。そろそろ行かなきゃとローラはテオと立ち去る。家に戻ると書斎へ。資料の整理。PCに向かっても書ける気がしない。そうこうしているうちにテオに呼ばれる。生活に追われ、執筆が進まない。ローラはそんな毎日を繰り返している。一方、ディーンの仕事は順調らしく出張も頻繁だ。ローラも顔を出したディーンの会社のパーティーは、50万人のフォロワーを獲得できたことを祝うものだった。ローラのまぶたに焼き付いたのは、ディーンと意気投合するフィオナ(Jessica Henwick)という若い女性の姿だった。
ある晩遅くディーンが出張先から帰宅する。酔っているディーンはベッドに潜り込むとローラにキスを始めた。ローラがディーンに声をかけると、突然ディーンはそこから先へ進むことなく、隣で眠りに就いてしまう。ローラは自分の声を聞いたディーンが妻だと気が付いて中断したと、別の女性の存在を疑う。その疑いに囚われてしまったローラは友人に電話で相談し、父フェリックス(Bill Murray)にも電話をかける。成功したギャラリストである父は数々の浮名を流し、母やローラを苦しませた過去がある。それだけに男女の問題に精通していることは間違いなかった。父はパリにいた。彼には女性がいるだろうな。まあ戻ったらランチでも取りながら話そう。
フェリックスがアパルトマンの前でローラを拾って高級レストランへランチに向かう。父は入口で見かけた妊娠中の女性(Nadia Dajani)に美しいと声をかけ、ウェイトレス(Natia Dune)にバレエをしていたのではと尋ねる。フェリックスに言わせれば、男性が女性に惹かれるのは生物学的な問題で、男性という者は全ての女性を妊娠させたいと望んでいるんだと断言する。ローラは自分がつまらない女性になったから興味を失わせてしまったのかもしれないと卑下するが、フェリックスは今が一番輝いている、ディーンはローラを崇拝すべきだと言う。そして、ディーンの素行調査を始めようとローラに提案するのだった。

 

娘二人の子育てに追われるローラ(Rashida Jones)が不在がちな夫ディーン(Marlon Wayans)の浮気を疑っているところに、父フェリックス(Bill Murray)が浮気調査を買って出ることで起こる一騒動を描く。
Bill Murrayが常に美を追い求めて文字通り「暴走」するプレイボーイを茶目っ気たっぷりに演じて説得力がある。
フェリックスは自らが浮気性なので男が皆浮気性なのだと思ってしまう。
相手を求めて床に脱ぎ捨てられた衣服が子供たちの散らかした玩具へと変わることで、女性の立場の変化を視覚的に表している。とりわけフェリックスが娘に思わず漏らす「昔は面白い子だったのに(used to be fun)」という感慨がグサッと来る。
テオ(Alexandra Mary Reimer/Anna Chanel Reimer)の無邪気さが自然で微笑ましい。まさか一つの役を二人で演じていたとは(鑑賞中は全く気付かず終い)。