可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 齋藤陽道個展『絶対』

展覧会『齋藤陽道写真展「絶対」』を鑑賞しての備忘録
日本橋三越本店〔本館6階コンテンポラリーギャラリー〕にて、2020年11月18日~30日。

齋藤陽道の「逆光ポートレイトシリーズ」の写真20点を紹介。

言葉に区切られて当然といった世界観から、
自由になりたい。
甘ったるい夢物語と笑われようとも、
それが私の長年の願いであり、戦いです。
(齋藤陽道が本展に寄せたステートメントより)

《角の欠けた牛》(2014)は太陽の傾いた草原に佇む牛を正面から捉えた作品。牛の左奥の夕日と相似を成すように右手前に光輪が現れる。
《振り返った青年》(2010)は草原でリュックサックを背負った若者が振り返る。成年の顔からわずかにズレた位置にある太陽が顔を影にすることで、その表情を曖昧にさせる。顔面を塗りつぶすかのようなタイプの肖像画との親和性も感じる。
ミノタウロス》(2014)は牛の頭骨を自らの頭の位置に掲げた人物の写真。背後に立ち並ぶ建物の間から注ぐ日光が画面に複数の光輪を描き出す。
《母子》は母親が赤子を抱く姿を逆光で捉えた作品。我が子にじっと視線を注ぐ母と鑑賞者に眼を向ける赤ん坊とが複数の光輪に包まれる中に浮かび上がる。母の手(腕)の大きさ強く迫ってきて、女性の太く力強い手足が印象的なパブロ・ピカソ新古典主義の絵画は、このような場面に遭遇して描かれたのだろうかなどと考えてしまう。
《少女》(2016)は、赤いTシャツにネックレス、右手に手にした草花を胸の位置に置く短髪の少女のポートレイト。逆光の中、力強い目が太陽光線のように鑑賞者を射貫く。
《向日葵》(2012)は、皆が太陽を向く必要なんてないだろうと訴えるようなヒマワリの写真。
ましらのまれびと》(2012)では、サルの仮面を被った人物が、グエル公園に似つかわしいような遊具の傍に、細江英公の『鎌鼬』に登場する土方巽のように佇んでいる。