可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ジョゼと虎と魚たち』

映画『ジョゼと虎と魚たち』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の日本映画。98分。
監督は、タムラコータロー。
原作は、田辺聖子の小説「ジョゼと虎と魚たち」。
脚本は、桑村さや香
キャラクター原案・コミカライズは、絵本奈央。
キャラクターデザイン・総作画監督は、飯塚晴子
アニメーション制作は、ボンズ
編集は、坂本久美子。

 

鈴川恒夫(中川大志)は海洋生物学を学ぶ大学4年生。ダイビングが趣味で、ダイビング・ショップ「オーシャンステージ」でアルバイトをしている。アルバイト仲間の二ノ宮舞(宮本侑芽)が恒夫に声をかける。昨日はどうでした? イザヨイベンケイハゼがいた。よく見つけましたね。うねりがなくてラッキーだったよ。来週の水曜、休みですよね。潜りにいきませんか。いいよ、女友達連れて来いよ。答えたのは恒夫ではなく、二人の傍を通りがかかった同僚の松浦隼人(興津和幸)。恋人は魚じゃなくて人間がいいからな。僕はバイトを入れたからパス。恒夫、22歳の夏は1度だけだぞ。恒夫は研究室に所属する傍ら、バイトを掛け持ちでこなし、隙間時間でスペイン語を勉強している。来年のメキシコ留学実現に向け、準備に余念が無い。コンビニで夕食を買って帰ると、工事でいつもの道が塞がっていた。回り道をした恒夫の耳に女性の悲鳴が届く。車椅子が坂道を猛スピードで走って来る。車椅子が転倒し、前方へ投げ出された彼女を恒夫が何とか受け止めるがその場に倒れ込む。老女(松寺千恵美)が「クミ子」と声をかけながら坂道を下ってくる。祖母と思しきその女性がクミ子と恒夫に怪我は無いかと声をかける。大丈夫ですと返答する恒夫。クミ子(清原果耶)は、触るな変態、と助けた恒夫ににべもない。今夜の外出はおしまいにしようね。誰かに押されたんだよ。やっぱり外の世界は恐ろしいね。祖母はクミ子を車椅子に乗せて押して行く。何でついてくるの。自宅に向かってるだけさ。古い家の前に到着する。祖母は恒夫が転倒の際に夕食を駄目にしたのに気付いていて食事に誘う。ご飯が残っていないからたこ焼きでいいね。節約しているので助かります。軒先から部屋に黒猫が入ってくる。上がり込むなんて図々しい。本を読みながらクミ子が言う。猫のことから思いきや恒夫のことだった。生まれつき歩けないクミ子は自分をジョゼと名乗り、祖母のチヅに飲み物を出してなどと指図していた。恒夫はチヅを気の毒に思いジョゼに麦茶を出すのを手伝う。出会い頭からとげとげしい対応を取られてきた恒夫は自分でやれることもあるだろうとジョゼに指摘すると、彼女は自分の部屋に引っ込んでしまう。帰りがけに玄関で恒夫はチヅから引き留められる。お金が必要ならお願いしたい仕事があると言う。翌日、再びチヅの家に向かった恒夫は、クミ子の世話をして欲しいと頼まれる。恒夫は戸惑うが、外出以外は何をしてくれても構わないと言い残して、チヅは出かけてしまう。ジョゼは相変わらずとりつく島もない。恒夫に正座していろと命じて自室に引き籠もってしまう。

 

生まれつき歩くことの出来ないジョゼ(清原果耶)と、偶然の出会いをきっかけに彼女の世話をすることになった大学生・鈴川恒夫(中川大志)との交流を描く。
ジョゼが恒夫にとげとげしい対応をとるのは、歩行不能という障害を抱える自分が普通に人と付き合えるとは思っておらず、恒夫に去られてしまった場合の言い訳を用意するためなのだろうと思われた。ただ、祖母のチヅがジョゼの外出を禁止し、福祉支援員を家庭に入れようとしない頑なな態度からは、本当に家の外には虎(=ジョゼを食い物にする人)が存在すると感じていることがうかがわれた。ジョゼを一目見た松浦隼人が美少女と評するジョゼが、その身体の不自由さのために強いられた暗い過去が存在するのかもしれない。ジョゼの部屋は、社会から退避するために沈潜する海中(あるいは海底)として位置づけられている。このような陰の部分はできる限り作品からは排除されている。チヅが恒夫に声をかけずに服を引っ張ったり、外出先を示すのにジェスチャーを用いるシーンは、鑑賞者に描かれていないことをこそ読み取れというメッセージを投げかける。アニメーションだから描かれ(見え)てしまう部分があるからこそ、キャラクターの性格や抱える事情といったものにたっぷり余白を残しているのではないか。結果として、、図書館の読み聞かせに目を輝かせる幼い子どもたちに作品を見てもらうことを可能にしつつ、障害者の立場に思いを巡らせるような作品になっている。
読み聞かせの絵本は重要な役割を担っている。松田奈那子の描く絵が絵本を魅力的にしている。