可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『Mank マンク』

映画『Mank マンク』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。132分。
監督は、デビッド・フィンチャー(David Fincher)。
脚本は、ジャック・フィンチャー(Jack Fincher)。
撮影は、エリック・メッサーシュミット(Erik Messerschmidt)。
編集は、カーク・バクスター(Kirk Baxter)。
原題は、"Mank"。

 

1940年。ロサンゼルス北東に位置するヴィクターヴィルの郊外に広がる沙漠地帯の道を2台の車が疾走している。ノースヴェルデ牧場の宿泊施設の前で停車し、脚本家の「マンク」ことハーマン・マンキーウィッツ(Gary Oldman)が松葉杖を突いて降りてくる。数週間前に交通事故で足を骨折していた。ベッドに横になったマンクにジョン・ハウスマン(Sam Troughton)が、イギリス出身で口述筆記を行う秘書のリタ(Lily Collins)と、ドイツ出身で栄養学にも精通した看護師のフリーダ(Monika Gossmann)を紹介する。ここはオーナーから飲酒を禁じられています。90日間缶詰で脚本を仕上げてもらいます。脚本としてクレジットに名前を載せないことで了解頂いていますね? 女性二人に男性二人で体面を汚してはいけませんから私は別の宿泊所に逗留します。電話が鳴る。オーソン・ウェルス(Tom Burke)からだった。RKOピクチャーズから映画制作についてあらゆる決定権を委ねられていた彼が、今回の脚本の依頼主だった。ハウスマンが、さすが天才、素晴らしいタイミングだと驚いてみせる。マンクが電話に出る。エイハブさんよ、タイプの音は聞こえないが、モービーディックと格闘しているんだろうね。60日後にはしっかり書き上げて下さいよ。麺の生地ならまだしも脚本を練るのに30日も削られるとね。全権は俺にあるということを忘れなさんなよ。執筆が始まって間もなく、リタが主人公のモデルがウィリアム・ランドルフ・ハースト(Charles Dance)だと指摘する。マンクは10年前、チャールズ・レデラー(Joseph Cross)を介してチャールズの叔母で女優のマリオン・デイヴィス(Amanda Seyfried)、そしてマリオンを愛人にしていたハーストと知遇を得ていた。鎮静剤入りの酒に手を出して昏睡したりしながら、少しずつ脚本を書き上げていくマンク。締め切りまであと2週間となり、ハウスマンがまだ90頁しか書けていないこと、また作品が時系列で進行しない複雑さを憂慮する。マンクはベッドで姿勢を補助する装置を導入することで作業を効率化させると請け合う。仰々しい補助器具の入った木箱の緩衝材の藁の中には大量の酒瓶が仕込まれていた。リタはこのままでは馘首になってしまうと不安がるが、マンクは酔っ払って眠る前が一番仕事が捗るのさと気にかけない。リタはマンクに協調して酒を提供するフリーダに文句を言うが、出身地の村人が皆ドイツから亡命できたのはマンクの力添えのお蔭だからと意に介さない。マンクの陰徳を知ったリタはマンク流の仕事術を許容するのだった。

 

脚本家の「マンク」ことハーマン・マンキーウィッツ(Gary Oldman)を、彼の代表作である『市民ケーン(Citizen Kane)』の脚本を書き上げる過程を中心に据えて描く。『市民ケーン』の脚本の構成に則って、ウィリアム・ランドルフ・ハースト(Charles Dance)や彼の愛人であったマリオン・デイヴィス(Amanda Seyfried)を始め、マンクと人々との交流の想い出を挟みながら物語が展開する。
マンクとハーストとの初対面で、映画が無声映画からトーキーへ、あるいはギャングや笑いから文学へと変化することが話題にのぼり、両者が意気投合することになる(ディナーの席では隣にマンクを、とハーストが要望する)。
MGMのルイス・B・メイヤー(Arliss Howard)の悪辣ぶりは、マンクと弟のジョセフ(Tom Pelphrey)がMGMで働くようになる冒頭、恐慌やニューディール政策を理由に、スタッフの給与を半減させる提案をするための泣きの芝居を打つなど、作中の随所で描かれる。
カリフォルニア州知事選挙をめぐり、メイヤーやその盟友のハーストは、社会主義的な政策を訴えるアプトン・シンクレア(Bill Nye)を打ち負かし、共和党のフランク・メリアムを当選させるために動く。彼らの意向を汲んだアーヴィング・タルバーグ(Ferdinand Kingsley)は、マンクにも協力を迫る。マンクはメリアムの宣伝映画でも作ってろと吐き捨てたが、タルバーグはそのアイデアシェリー・メトカーフ(Jamie McShane)を使って実現してしまう。映画を見る人は、キングコングが10階建てのビルの高さがあると思い、40歳の女優を処女と信じてしまうものなのだ。
ギャンブルや酒に溺れるマンクが何とか脚本家でやっていけているのは、マンク自身もなぜ連れ添い続けてくれているのか分からない「可哀想な」妻のサラ(Tuppence Middleton)の存在があるからだ。
大まかな筋を追うことは可能だが、登場人物を把握するのは難しい(実在の人物を描いているので、ある程度知識を持っていることが前提とされている)。上記程度の内容を押さえておけば、鑑賞には問題がないのでは?