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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 星山耕太郎個展『PSYCHOLOGICAL COLLAGE』

展覧会『星山耕太郎展「PSYCHOLOGICAL COLLAGE」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋本館6階美術画廊Xにて、2020年12月30日~2021年1月18日。

画面を漫画のコマのように分割し、それぞれのコマに異なった描法で描き込むことで制作された絵画20点強を紹介する星山耕太郎の個展。

雪舟水墨画《慧可断臂図》は、壁に向かって座禅を組む達磨に参禅を求め許されなかった慧可が、左手を切断して改めて入門を求めたエピソードをテーマとした水墨画。大口を開けて達磨を飲み込もうとする怪物のようにも見える洞窟と、それに対して眦をひらき泰然と構える達磨、達磨の背後で左手を捧げ持つ慧可をハードボイルドに描く。雪舟の作品を踏まえてのものか定かではないが、作家による同じ題の作品は、達磨と慧可の顔にモティーフを絞り込んでいる。画面を左右に均等に分割し、左側三段に慧可の、右側三段に達磨の顔を配する。慧可に対して、達磨の中央のコマの面積がやや大きい。達磨の上段のコマは壁と達磨との一体感を、慧可の中段のコマは左手の切断で流された血を、想像させる。水墨画を連想させる黒白系の色でまとめているが、禅画風、写実風、漫画風、抽象画風などコマごとに描法が違えられている。例えば「禅画"風"」であるのは、黒い太い描線が一筆で描かれたものではなく絵具を塗り込めて表されているからだ。衒いなく画風を組み合わせてしまうのは、コマ割りとともに漫画的な性格を示している。また、コラージュならば複数の要素を境目を見せずに組み合わせそうだが、コマ割りにより描法の差異を画然と切り分けている。様々な描法の導入の仕方自体が「コラージュ"的"」である。

パブロ・ピカソの《ゲルニカ》をモティーフとした作品は、複雑に分割された12のコマで構成されたモノクロームに近い配色の絵画だ。それぞれのコマは、人物の顔や手、動物の足巨大な腕などがキュビスム、写実、幾何学的イメージなど複数の技法で描き分けられている。コマ割りの線が都市や身体の切断のイメージを強めるとともに、異なる大きさの矩形に細分化されることで粉砕の効果を生んでいる。左下のコマには原作に近い手法で描かれた手を広げた大きな腕(再び断臂図!)があり、その上のコマには磨りガラスのようにぼかされた正方形のコマがある。映画『この世界の片隅に』(2016)の爆弾の爆発シーン(三度断臂図!!)のように、凄惨な表現を回避しつつ、鑑賞者に画面を補う想像力を要求する仕掛けとなっている。

肖像画のシリーズでは、サルバドール・ダリ、サミュエル・ベケット、エトムント・フッサールなど、画家を中心に、文学者、哲学者らがモティーフとして取り上げられている。自画像も複数組み込み、彼らの向こうを張って意気軒昂である。パブロ・ピカソの顔を4分割した作品では頭部のコマにドミニク・アングルの《トルコ風呂》を描き込んだり、8分割したアンディー・ウォーホルの肖像画ではヴァニタスの要素を組み合わせたりと、伝記や人物評の要素が加えられている。自画像からは、個人(individual)レヴェルにおける「分人(dividual)」というテーマも覗われる。