可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 秋山早紀個展『次はどこに行こうか』

展覧会『秋山早紀展「次はどこに行こうか」』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2021年2月16日~21日。

観光スポットをテーマにした絵画17点で構成される秋山早紀の個展。いずれの観光スポットのどのような点に着目して制作されたかを解説したリーフレット「GUIDE BOOK」(A4版三つ折り)も用意されている。

例えば、姫路城をモティーフとした作品には、《ハッピーバースデー真っ白な君》とユニークなタイトルが付けられ、クライスラー・ビルディングを思わせるような形状で表された「白鷺城」の上部に蝋燭のようなものを立てたものが描かれている。一見すると、戸惑ってしまうような表現の飛躍を感じる。だが、「GUIDE BOOK」に寄せられた「姫路城は小さい頃にもみたことがありましたが、真っ白になって改めて行きました。真っ白で、何段にもなっている形は、クリームたっぷりの誕生日ケーキに見えます。」とのコメントを読むと、石垣の上に立つ大天守の高さ、5重6階の重なり、白漆喰で塗られた壁の白さ、何より幼少期の視線(印象)が重ね合わされていることが考慮されて、穏当な表現に見えてくる。「GUIDE BOOK」を頼りに、作品の成り立ちに思いを馳せながら鑑賞する。それは、ガイドブックを片手に観光スポットを経巡っているのと同じ構造だ。鑑賞者は作品という観光スポットを訪れる観光客となるのだ。

《上から見たらバームクーヘン》は、六本木ヒルズから見下ろしたような角度で国立新美術館を描いた作品。波打つガラスのカーテンウォールはバウムクーヘンの生地となり、平屋根や側面の壁はシュガーコーティングされている。背景は、「バウムクーヘン」が置かれた位置より下はグレー、上はピンクによって塗り分けられている。背景の白みがかったパステル調の色彩と、「バウムクーヘン」に筆跡を残す表し方と相俟って、「お菓子の家」のようなメルヘンチックな印象を生んでいる。国立新美術館を特徴づけるガラスのカーテンウォールは緑がかっている印象が強いが、夜間は内部の照明によって、むしろバウムクーヘンの生地ような色合いで浮かび上がる。そして、建物の周囲や内部には「ウッド」デッキのような床が敷いてあり、光壁は「木」のルーバーで飾られている。さらにカーテンウォールには水平に設置されたガラスが「層」を成している。国立新美術館には確かに「バウムクーヘン」なのであった。

《なびくチェックのスカート》は、池に映る平等院鳳凰堂を描いた作品。上部5分の1程度に青空を背に白地に赤い格子の鳳凰堂を配し、画面の残りの部分を水面に映った鳳凰堂をクリーム色の地に歪む赤い格子で抽象的に表現している。鳳凰堂は、左右の楼閣によって翼を広げた鳥に見立てられたことが呼称の由来の1つとされているが、作者は鳥ではなく人に擬えた。中堂を頭部に隅楼を肩に、水面の影をスカートに見立て、低い位置から見上げるように描いたのである。建物の擬人化も故無しとはしない。中堂に安置された阿弥陀如来の顔を対岸から臨むことができるよう計画されているのだから、中堂を頭部と解することは自然な発想と解しうるからだ。中堂を2階建てのように見せている裳階が裳裾を経由してスカートを連想させるのも至極当然である。

モスクワのクレムリンをモティーフとした《窓の外も中も窓も雪》(幅の異なる2画面で構成)では、雪の降り積もる景色を、白い背景に、建物を白で塗り重ね、窓を黒い描線で表している。そして、舞う雪も、それがつくる影を捉えるかのように黒で表されているのが特徴だ。結果、白地に黒い点が分散する印象的な画面が生まれた。

平戸のザビエル記念聖堂をモティーフとした《お山からぬっと手》は、緑一色だが塗り重ねることで険しさを表現した山の向こうに、5つの白い尖塔が姿を見せている。各塔の先端は銀色に光りネイルを施した手のように描かれている。この見立てによって、(キリスト教から仏教への宗旨替えになってしまうが)『西遊記』の釈迦の掌と五行山を連想してしまった。

平戸大橋を渡っている最中に赤い吊り橋を描いた《Aバンザイ!》。青空を背景に赤い洗濯ばさみのような塔を「A」、そこから延びるメインケーブルが腕をバンザイするように伸ばしたとの見立て。サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジをいつか渡ったなら、《AAバンザイ!》が生まれるかもしれない。