可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『第23回グラフィック「1_WALL」展』

展覧会『第23回グラフィック「1_WALL」展』を鑑賞しての備忘録
ガーディアン・ガーデンにて、2021年4月6日~5月15日。

グランプリ受賞者に個展開催権が与えられる公募展「1_WALL」。第23回グラフィック部門の二次審査を通過した5名によるグループ展。一見静寂に包まれたメルヘンチックな世界だが、絡まったり縛ったりする引き込んだりするモティーフに溢れている八木恵梨の「LIFE, SAVE, AH~」、壺や皿など陶磁器のモティーフを刺繍しプリントした布を絵画的に提示することでファブリック、絵画、陶芸を混淆させる石川晶子「ネオ陶芸」、目に留まったイメージをベニヤ板の上に描くことで文脈から切り離された情報の標本を作成した堀田ゆうか「C」と、下記2作品。

芹「惑星七草」
金・銀・白・赤・青・緑などのマーカーで描いたドローイング作品(縦に5枚横に12枚の計60枚)と、切断した角材を積み木のように組み立ててステープルで留めた彫刻作品(6点?)と木の板の絵画的作品(3点)から構成されている。やや黄ばんだ紙に表されたドローイングは、ピート・モンドリアンの《ブロードウェイ・ブギウギ》のモティーフのいくつかを即興的に手描きしたような作品群。幾何学的な線で構成され、何かの装置のための回路図のようでもあるが、手描きによる線の肥痩や歪みが素朴な味わいを醸し、工業的性格を打ち消している。角材を組み合わせた彫刻作品は、マーカーで描かれた円などに加え、赤・青・黄のテープによって飾られている。アンビルドに終わった建築構想のマケットのようでもある。仮に平面作品から3次元の情報を読み取ることができるなら、立体作品から4次元空間を看取することも可能であろう。もっと単純に、ドローイングの2次元平面の回路(通路)を彫刻が移動する状況を想定することを考えてもいい。鑑賞者は、並行世界へのとば口に立っている。そのワームホールを抜ければ、「惑星七草」の世界に遊ぶことができる。

平手「あなたは風穴」※グランプリ受賞
身体を拡張する装置のような着脱できる立体作品と、それを実際に装着した状況を撮影した写真を中心に、部分的に欠損した身体などを描いた絵画、鼻血を出した男に遭遇した男の漫画、天使らしき背に羽を持つ人物などを表した陶器(あるいは紙粘土?)、さらに時計、カレンダー、鏡などで構成される。着脱式の身体拡張装置には、吐瀉物を吐き出すマスク、左頬に拳を打ち込んだマスク、銃口を銜えたマスク、口づけを交わす人物の上半身の付着したマスク、ソフトクリームを手にした上半身、聴診器の当てられた上半身などがある。義手や義肢などを身につけるように、人は足りないものを補うべきである。新たなものを受け入れるためには、溜め込んだものを吐き出さなければならない。攻撃を避けるためには、予め打撃を受けなければならない。過去を消し去るためには、脳天を撃ち抜かなければならない。身体の接触を回避するためには、口を塞がなければならない。空腹を感じないように常に食べ物を手にしていなければならない。異常と診断される前に診察を受けなければならない。先行し、あるいはリセットするには、五体では満足などできない。身体に時空の超越は不可能なのだ。身体に風穴を開けて、皮膜だけの身体を、穴を穿たれた風船のように、時空の自在に飛び回らせよう。カレンダーや時計の上方を翔る「天使」がそのイメージを提供している。