展覧会『吉田晋之介「PERISCOPE」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo Ryogokuにて、2021年8月14日~9月11日。
表題作の映像作品と絵画8点とで構成される吉田晋之介の個展。
ギャラリーの入口脇のガラスの壁面には、通りに向かって絵画の「裏側」が展示されている。木枠の表面内側に、虹のように複数の色を順に配した線が描かれている。画布(亜麻布)を穴が視認できるくらい強く張り、下方にはなだらかな傾斜を持つ山型に黒(濃紺?)を塗り込み、斜線に沿って点線を二重に描き、色取り取りの点(花?)を散りばめている。テントの中に広がる宇宙にも見える。上部の木枠には日・英表記の作者名と制作年(2021)とを記す。《Through the mask》と題された作品で、表側には、中央を頂点になだらかに左右に傾斜する白いマスクを描いている。
映像作品《PERISCOPE》は、インターチェンジを走行する自動車から見える景色から始まる。一面の水田、併走する自動車、点在する屋敷林、鉄塔と電線、立ち上る焚き火の煙。映像は、海岸に設置した鏡に映る波へと切り替わる。汀の景色が続くうち、突然右上にメールの着信を知らせる表示が現れる。カメラが引いていき、海辺の景色はPCのディスプレイのものだと分かる。メールの入力作業。再び画面は切り替わる。マスクを付けて自転車に乗り、言問通りから凌雲橋、さらに上野公園へ。続いてオフィス(?)の光景が映し出される。自転車走行のモティーフは繰り返され、国際的スポーツイヴェントの映像(わずかな間とは言え遂に目にしてしまった!)が、その開催に抗議するデモの音声とともに挿入される。いつしか映像は、暗い部屋に複数台設置されたモニターにスポーツイヴェントの「業火」だけが浮かび上がるものになっていて、焚き火のパチパチという音が重ねられている。3度目の自転車の走行は、上野公園(「芸術の散歩道」)から空を介してどこかの森の中へと切り替わる。カメラは小さな生き物や朽ちた木などを捉えた後、木の間に置かれたケージの中のブンチョウの姿を映し出す。木の葉が舞い、鳥が羽ばたき、飛行機が飛んでいく。そして、BGMのピアノを演奏する手が、羽ばたくように鍵盤上を動く。その光景を映し出すダッシュボードのモニター。窓外にはインターチェンジのカーブする道が広がる。タイトルに冠した「潜望鏡(PERISCOPE)」は、コロナ禍において室内に籠もる生活のメタファーである。だがコロナ禍は、あらゆる情報を小さな箱「电脑(Diànnǎo)」ないし掌に乗る機械「手机(Shǒujī)」から取り出して自足する状況を誇張して描いて見せているとも言える。森の中のケージの文鳥は、世界を閉ざされた箱の中で見ている鑑賞者の姿に他ならない。作家が、ギャラリーのガラスの壁面を使って絵画の両面を見せたのは、ギャラリー(=ケージ)の内外を意識させ、そこから飛び立つ必要性を訴えるためであった。実際、作家は、文鳥(会場の一番奥に展示された《森Ⅲ-いる》)を飛び立たせている(会場の受付脇の壁面の高い位置に飾られた《森-いない》)。