展覧会『西野壮平展「東海道」』を鑑賞しての備忘録
日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリーにて、2021年9月1日~13日。
日本橋から三条大橋まで旧東海道を歩いて撮影した写真を切り貼りして作成した絵巻物《東海道》を紹介する、西野壮平の個展。
2017年の1月~3月にかけて、作家は旧東海道の起点・日本橋から53のかつての宿場町を経由して京都三条大橋までを踏破した(その過程をコンパクトに紹介するドキュメント映像の上映もあり)。その過程で撮影した写真を手作業で切り貼りして作成したイメージを、縦580mm×横34000mmの絵巻物《東海道》に仕立てた。絵巻物《東海道》の一場面をケースに陳列するとともに(全篇については映像で紹介)、部分を独立させた断簡のような作品19点を壁面に展示している。
《東海道 日本橋-品川》では、日本橋北詰の交差点を三越側から俯瞰するイメージを中心に据えている。歌川広重「東海道五十三次」シリーズの向こうを張ってか、賑わいの演出に箱根駅伝の光景を取り込む。「行列振出」を年始のスポーツ・イヴェントに置き換え、毛槍の代わりに大学の幟を立てる。《東海道 保土ケ谷-戸塚-藤沢》に立ち並ぶマンションは、「東海道五十三次」神奈川「台之景」の手前から奥に連なる家並みを彷彿とさせる。《東海道 箱根》では、「天下の嶮」である「萬丈の山」を、遠景の富士とのコントラストを活かしつつ、画面に大きく表わして屹立させている。《東海道 原-吉原》では、田畑の向こうに画面の枠線を飛び出す富士を描いた「東海道五十三次」原と同様のモティーフを取り入れながら、中景に工場や煙突を配することで、富士の勢いを削ぐかのようだ。《東海道 二川》では「東海道五十三次」二川のモティーフがほとんど描かれず物寂しい中景を踏まえ、広がりのある景色を取り込んでいる。鳥居の傍の産廃は参拝の掛詞であろう。《東海道 知立-鳴海》では宅地造成の光景が、《東海道 草津-大津》ではロードサイドのチェーン店(の看板)が盛り込まれている。
矩形の写真の形を消去せずに残し、コラージュであることが強調されている。画面の継ぎ接ぎを眺めていると、写真の撮影は眼前の光景を切り取る作業であるが、切り取るからこそ繋ぐ必要が生まれるのだと思わされる。撮影自体難儀であろうが、撮り溜めた膨大な写真を取捨選択して貼り合わせる作業はそれに匹敵するかそれ以上の難事であろう。歌川広重「東海道五十三次」シリーズのイメージを参照しつつ、旧街道の姿が残っていれば積極的に取り込み、道路・鉄道・河川・橋・建物のイメージで繋いでいっている。画面上部には空の写真が張り巡らされている。旧街道だけを歩いて撮影していれば、建築物に視界を遮られる場面が多いのではなかろうか。かつての宿場の現状を俯瞰的に捉えようという姿勢が、遠景からの撮影を促し、空を作品に取り込むことに繋がったものと推察される。結果的に、例えば「東海道」新幹線のように、トンネルを潜るこのない、かつての旅路の性格を明るみ出すことにも繋がった。