可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 マベル・ポブレット個展『WHERE OCEANS MEET』

展覧会『マベル・ポブレット「WHERE OCEANS MEET」』を鑑賞しての備忘録
シャネル・ネクサス・ホールにて、2023年3月1日~4月2日。

海や女性などをモティーフにした写真・映像・インスタレーションで構成されるマベル・ポブレット(Mabel Poblet)の個展。

「My Autumn」シリーズの「PRAYERS」連作は、写真を印刷した小片をまきびし状(?)に折ったものを大、中、小の順に三層に重ねて円形に配列した作品。展覧会タイトルの記載されている艶の無い落ち着いた青い壁面の《PRAYERS 1》(φ1200mm)は、緑がかった海の中にいる女性の胸像のようであるが、「まきびし」とその襞が作るモザイクのイメージは近付けば近付くほど曖昧になってしまう。《PRAYERS 3》、《PRAYERS 2》、《PRAYERS 4》、《PRAYERS 5》(各φ1200mm)も同じく水中の女性像だが、通路の壁面に鏡張りの壁面と向かい合わせに展示され、離れて正面から見ることが難しい。
「PRAYERS」の4作品の通路の奥には、「Homeland」シリーズの《MEDUSA 2》(φ1500mm)が覗く。緑色の海に浮かぶ女性が両腕を左右に広げて頭を上にした十字を形作る円形の写真の上から、片面に写真の断片を貼り付けた三角形の鏡を糸に取り付けたものが簾状に垂らされている(下端は円弧状)。空気の流れによって鏡が動き、壁や床など周囲に乱反射する光は、海面の陽光を連想させる。左隣の《MEDUSA 1》はやはり女性が両腕を左右に拡げて海に浮かぶが、《MEDUSA 2》よりクローズアップされ、女性の頭部は左側に右側の足先は画面から外れている(「簾」の下端は三角状)。
「My Autumn」シリーズの《WANDERNG》、《AFLOAT》、《ITINERANT》、《STILL》、《FUGACIOUS》《FLUID》(各600mm×600mm)は、写真を印刷した小片をまきびし状に折ったものを正方形に並べ、緑色の水に浮かぶ女性の部位――上半身、脚、腕、腹など――を表わした作品。イメージを構成する個々の断片が浮き立っていることが、浮遊、漂流、儚さといったイメージを強めている。《EPHEMERAL》(2400mm×2400mm)のイメージに到っては何がモティーフであるのか判然としない。
「Homeland」シリーズの《ISLAS》は、片面に写真を貼った5cm×5cmほどの鏡を34個吊した糸を十角形状に並べ、その周囲を十角形の鏡の壁面(入口・出口の2面を除く)で覆ったインスタレーション。青い光が照らされるのは、藍色の水面と鏡。無数の静止した海と周囲の流れる景色を映し出す鏡とが混在する。1つ1つのイメージは島(isla)、すなわち閉じた時空であり、映画『インターステラー(Interstellar)』(2014)でクーパーが辿り着いたテサラクト、あるいは映画『アフター・ヤン(After Yang)』(2021)でジェイクがヤンの記憶を再生するためにかける眼鏡型の装置など、複数の世界を一覧する感覚を体感できる。
「Buoyancy」シリーズの《SUBLIMATION》(φ2000mm)は、半球の中に空と海中のイメージを同心円状に表わし、その中央では、女性が中央の水底から画面の側へと浮上し、あるいは再び水底へと潜っていく映像が繰り返し映し出される。女性とその浮上と沈潜とは生命の誕生と死とを表わし、生命が時間であることを印象付ける。
時間は流れる。複数の時間、すなわち流れが注ぎ込むのが海洋であり、そこで限りないほど多くの生命=時間=流れが合流する。会場はあらゆる生命の流れ込む海として構想されている。そのために冒頭に青い壁面が置かれたのであり、鏡は、対象の鏡像が得られる光の速度に思いを馳せるためであった。