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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『OPEN SITE 6 Part 2』(坂東祐大×文月悠光「声の現場」)

展覧会『OPEN SITE 6 Part 2』(坂東祐大×文月悠光「声の現場」)を鑑賞しての備忘録
トーキョーアーツアンドスペース本郷にて、2021年12月4日~2022年1月16日。
公募して選出された企画の展示とパフォーマンスの上演とから成る「OPEN SITE」シリーズの6回目。2期に分かれて実施され、「Part 2」の展示部門では、エレナ・ノックスの「Actroid Series Ⅱ」(1階展示室)と、ハラサオリ「Odd Apples」(2階展示室)に加え、TOKAS推奨プログラムとして坂東祐大×文月悠光「声の現場」(3階展示室)が開催された。

坂東祐大×文月悠光「声の現場」(3階展示室)
壁に添って6台の譜面台が間隔を開けて設置され、展示空間を囲っている。各譜面台には、文月悠光が2020年に付けた日記から抜き書きした文面(譜面台ごとに異なる内容。ニュースの引用もある)がB4版に印刷されたものが載せられ、上方にはスピーカーが設置されている。スピーカーからはそれぞれ牧村朝子、中村みちる、矢部華恵、細川唯、文月悠光、涂櫻が、日記を朗読する声の断片が流れる。それぞれの言葉は、卒業式の「呼びかけ」の応答のように連ねられていく。だが、それぞれの応答は言葉に反応して発せられたものではない。坂東祐大が編集して繋ぎ合わせたものである。例えば、「早期に検査を受けた人」「ライトアップされる」とか、「他人の目に映る」「私の素顔」「書いて頂きました」とか、「感染拡大の影響で」「補助輪付きの自転車」「届きました」とかいった具合だ。文脈を外れた言葉が繋ぎ合わされることで生まれるおかしみは、未知のウィルスの感染が拡大していく中、人々が断片的な情報に翻弄する姿の揶揄ともなっている。そして、一人ずつの音声を明瞭に聴き取ることができる中で、「それでもできることは」に続く部分だけは、全員が長い文章を一斉に朗読するために何が言われているのか聴き取れなくなる。混迷を極める状況を照射する演出として際立っている。朗読劇的面白さに加え、「病院で」「密です」「取材で」「密です」「すべりこみで」「密です」のように「密です」を畳み掛けたり(「ウェルカムウォッシュ」のシークエンスもある)、「自助」・「共助」・「公助」の間にパーセンテージ(数字)を差し挟んで繰り返したり、「Go」と「Stay」が、ときに「home」や「犬」と重ね合わされていたりといった部分は、リズミカルで、つい聞き入ってしまうだろう。2020年の1つの地味なドキュメンタリーでありながら、芸術作品として鑑賞者を惹き付ける華やかな仕掛けが組み込まれている。
「ウェルカムウォッシュ」は確かに「衝撃的な文化」だ。意味の無い非接触式体温計の検査(個人の見解です)と並んで衝撃的な文化だ。もっとも、映画館の来場者を毎回毎回泥棒扱いするキャンペーン(「NO MORE映画泥棒」)を平気で打つ国においては、至極受け容れられやすい文化なのかもしれない。