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芸術鑑賞の備忘録

映画『ティル・デス』

映画『ティル・デス』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。
91分。
監督は、S・K・デール(S.K. Dale)。
脚本は、ジェイソン・カービー(Jason Carvey)。
撮影は、ジェイミー・ケアニー(Jamie Cairney)。
美術は、ニコラ・バーチェク(Nikola Bercek)とオーリン・グロズダノフ(Orlin Grozdanov)。
衣装は、イリーナ・コチェバ(Irina Kotcheva)。
音楽は、バルター・マイア(Walter Mair)。    
編集は、シルビ・ランドラ(Sylvie Landra)とアレックス・フェン(Alex Fenn)。
原題は、"Till Death"。

 

ニューヨーク。エマ・ウェブスター(Megan Fox)はトム・ゴーマン(Aml Ameen)の待つマンハッタンのホテルの1室に向かう。この1週間、君のことしか考えていなかったと迫るトムに、エマはもう関係を続けることはできないと告げる。トムはエマに対する愛の真剣さを訴え、明日改めて会えないかと尋ねるが、エマは明日は記念日だからと部屋を後にする。
エマはウェブスター&ガボール法律事務所へ向かう。事務員(Lili Rich)が記念日ですねとエマに花束を手渡す。執務室に夫の姿はなかった。テーブルの上にはニューヨーク市警の機密ファイルが出されていて、傷だらけのエマの写真が食み出していた。ファイルはボビー・レイ(Callan Mulvey)の犯行記録で、彼の写真を見たエマは、彼に襲われて背後から刺された記憶が蘇った。そこへ夫のマーク・ウェブスター(Eoin Macken)が現れる。エマは慌ててファイルをテーブルに戻すが、ボビーの写真は手にしたままだった。赤いドレスじゃないんだね。違う趣向を試そうと思って。エマは黒いドレスを身につけていた。家に立ち寄って着替えよう。マークはエマがボビーの写真を手にしているのに気づく。エマはなぜ例の事件のファイルがあるのか尋ねる。仮釈放の取消の件でね。それより事件なんて関係のない写真を見よう。マークは写真立てを取ってエマに見せた。
エマとマークが乗るエレヴェーターにトムが乗り込んできた。トムはマークに書類が溜まっていて仕事が終わらないとぼやく。トムはエマと面識がない振りをしているので、マークはエマに紹介する。するとエマはクリスマス・パーティーで会ったことがあると言う。トムも写真を出品されていましたねと応じる。するとマークがそれは違うと断言する。「ホリデー」・パーティーと言うべきだと。
レストランのテーブルに着席したマークは、ここの料理は間違いないと言う。エマは赤いドレスを身につけている。メインディッシュを食べ終え、接客係(Teodora Djuric)からデザートを尋ねられたエマはもう十分と断るが、マークがお勧めの品を自分と妻の2つ注文する。マークは赤い箱をテーブルに置く。プレゼントは無しにしようって言っていなかった? サプライズだよ。エマが箱を開けると、ダイヤモンドを埋め込んだ風変わりなデザインのネックレスだった。鋼鉄婚式に因んだ特注品なんだ。着けてごらん。別のテーブルでは、女性(Stefanie Yunger)が年配の男性から婚約指輪をプレゼントされて驚きの声を挙げていた。マークがエマの背後に回り、ネックレスを付ける。エマもプレゼントを用意していた。スーパーボウルのペア・チケットだった。毎年行きたがるでしょ? 今年はスティーラーズが酷いからな。
エマが化粧室で鏡に向かっていると、個室から鳴き声がする。出てきたのは先ほど婚約指輪をもらっていた女性だった。余計なお世話だと思うけど、石なんて意味はないのよ。確かに余計なお世話だわ。
エマとマークが席を立った後、接客係がテーブルに置かれた勘定書きを手にすると、中にスーパーボウルのチケットが挟まれていた。
レストランを出たところで、マークはもう1つサプライズがあるとエマに告げる。ポケットを確認してごらん。出てきたのは黒い布。エマは目隠しをさせられてマークの車に乗ることになった。

 

鋼鉄婚式を迎え、エマ・ウェブスター(Megan Fox)は、夫のマーク・ウェブスター(Eoin Macken)からのお祝いの「サプライズ」として、2人の思い出の場所である湖畔の別荘に連れて行かれる。マークは写真や音楽でエマに昔を思い出させ、冷えた夫婦関係を温め直そうと訴えた。ところが翌朝エマが目を覚ますと――。

結婚によって夫に支配された妻が、いかにして夫による桎梏を逃れるかを、スリラーに仮託した作品。冒頭、密会に向かうエマが自ら自動車を運転する場面を描くのは、湖畔の別荘に連れて行かれる際に、マークの運転する車の助手席に目隠しをされて乗せられていることと対比するためである。不倫は、妻が夫に強いる盲従から逃れるためのものである。鋼鉄婚式の祝いとして贈られる鋼鉄のネックレスは、象徴も何も無く頸枷そのものであり、それによって改めて妻を縛るのである(手錠によって「夫」と結びつけられた状態もまた然り)。そもそもサプライズを成り立たせるには、企画者の狙い通りの計画に相手を従わせなくてはらなない。利他的行為が――相手からの謝意を求めることを初めとした――相手の支配(欲求)に容易に堕してしまうように、サプライズもまた相手を恣にする欲望の発現以外の何物でもない。妻はあらゆる困難を乗り越え、いつしか氷(≒ガラス)の天井を叩き割るだろう。
湖畔の別荘は夏に行く場所。幸せな思い出は暖かい季節の中にある。凍てついた湖岸は、冷え切った夫婦関係を象徴する。全く違う光景だとエマが驚くのは当然なのだ。
純潔を象徴するウェディング・ドレスの活用法が斬新。
エマの逃走劇がコントに見えてしまうことも。