可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ブレット・トレイン』

映画『ブレット・トレイン』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
126分。
監督は、デビッド・リーチ(David Leitch)。
原作は、伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』。
脚本は、、ザック・オルケウィッツ(Zak Olkewicz)。
撮影は、ジョナサン・セラ(Jonathan Sela)。
美術は、デビッド・ショイネマン(David Scheunemann)。
衣装は、セーラ・イブリン(Sarah Evelyn)。
編集は、エリザベット・ロナルズドッティル(Elisabet Ronaldsdottir)。
音楽は、ドミニク・ルイス(Dominic Lewis)。
原題は、"Bullet Train"。

 

夕陽の射し込む病室。椅子に座っていた雄一(Andrew Koji)が立ち上がり、ベッドに眠る息子・渉(Kevin Akiyoshi Ching)の様子を窺う。未だに意識が戻らない渉の顔には血痕が付着している。部屋の上部に設置されたテレビを点けると、賑やかなアニメーションが流れる。ニュースに切り替えると、動物園から猛毒の蛇ブームスラングが盗まれたことが報じられていた。そこへ雄一の父(真田広之)が杖を突いて病室へやって来る。孫の容態は? 変わりは無い。家族を守るのが父親の役割だ。渉が屋上にいた時、父親はどこにいた? 渉が殴られた時、父親はどこにいた? 渉は幸運だ。どんなに恐ろしい運命か分からんようだ…。不運に救われたのだ。
暗い部屋で雄一は洗面台に向かい顔を洗うと、拳銃を手にする。
東京タワーが見える飲屋街。雨上がりの狭い通りを抜ける男(Brad Pitt)が電話をかける。ディア・クリーク・インターナショナル・ビジネス・ソリューションズです。ご用件は? 女性(Sandra Bullock)が応答する。こっちはいつでもいい。急な依頼に応じてくれて感謝するわ。男は、セラピストのおかげで、過剰に反応せず、他人の欠点を許容できる新しい人間に生まれ変わりつつあると誇らしげに報告する。セラピストはあなたが生活のためにしていることを忘れてるんじゃないかしら、テントウムシテントウムシ? 新しいコードネームよ。気に入らない? あんたの狙いは分かるさ。テントウムシは幸運ってことになってるからな。男は水溜まりにはまり、通過するトラックに危うく轢かれそうになる。あなたが不運なんてことは無いわ。そりゃ本当かい? 俺の不運は宿命みたいなもんだろ。殺すつもりも無いのに誰かが死ぬんだからな。ちょっと大袈裟じゃ無い? この前の政治家の脅迫の件でも、自殺しようとしたベルボーイがホテルの屋上から飛び降りたろう。あなたが不運なんじゃ無くて彼が不運なんじゃないかしら。それに彼は死ななかったでしょう。幸運なんて捉え方次第じゃない。ごもっとも。
通話を続けたまま、東京駅にやって来る。東京はいいよ。ここなら暮らせそうだ。本来ならカーヴァー(Ryan Reynolds)の案件だったの。彼は体の調子が悪くて。多くの人が行き交う駅構内で男は雄一とぶつかってしまう。駅構内のコインロッカーに辿り着いたとき、男は鍵の紛失に気付く。男はロッカーを鍵無しで解錠する。銃の他に爆竹や睡眠薬も入っている。通話相手が睡眠薬の服用について注意を促すとともに、銃を携行するよう促す。だが男は躊躇った後、銃を置きっぱなしにする。

 

男(Brad Pitt)は精神的な問題から「仕事」から遠ざかっていたが、セラピスト通いの甲斐あって恢復し、ハンドラーのマリア(Sandra Bullock)からの依頼に応じる。新たに「テントウムシ」というコードネームを与えられた男が向かったのは東京駅。京都へ向かう高速鉄道「ゆかり」に乗車してブリーフ・ケースを回収し、すぐに下車するという任務だった。車内の検札で車掌(Masi Oka)に乗車券をなくしたことを咎められるなど幸先の悪いスタートを切るが、あっさりとブリーフ・ケースは見つかった。そのブリーフ・ケースは、「レモン」(Brian Tyree Henry)と「みかん」(Aaron Taylor-Johnson)の2人組が「白い死神」(Michael Shannon)から彼の息子(Logan Lerman)とともに京都に無事に送り届けるよう依頼されていたものだった。ブリーフケースを手にした「テントウムシ」が品川で下車しようとすると、ちょうど乗り込もうとして来た「オオカミ」(Bad Bunny)にナイフで襲われてしまう。「テントウムシ」が「オオカミ」と格闘するうち、「ゆかり」は品川駅を発車する。

冒頭は意識不明の子どもが眠る病室でややシリアスな展開で、続いて『ブレードランナー(Blade Runner)』(1982のような)的東京の繁華街の描写が続くが、コメディ。ストーリーよりキャラクターとその掛け合いを楽しむ類の作品。
災難に次々と巻き込まれながらも、最悪の事態を回避できる幸運も持ち合わせたBrad Pittの飄飄とした「テントウムシ」は素晴らしい。だがとりわけ印象に残るのは「レモン」(Brian Tyree Henry)と「みかん」(Aaron Taylor-Johnson)の2人組の掛け合いだ。「レモン」が『きかんしゃトーマス』に登場する機関車で相手の性格を分析する
のは、『きかんしゃトーマス』についてよく分からなくても何故か面白い。彼の絶やすことのない、何かに困っている表情。それこそトーマスに登場する機関車が人間になったら「レモン」の表情を浮かべるのではないかと思ってしまう。
高速鉄道が「東京」から(今は無き「万世橋駅」に思いを馳せてしまう?)秋葉原を経由するところなど、現実と映画で創造された世界との違いを見るのだけでも楽しめよう。
毒蛇ブームスラングは、曲がりくねる線路を進む高速鉄道「ゆかり」のメタファーになっている。
Channing Tatumが突然登場する。Brad Pitt、Sandra Bullockとは『ザ・ロストシティ(The Lost City)』(2022)でも共演している。
日本の小説を原作にし、舞台を日本に設定にしながら、主人公や主要キャラクターを白人にしたのはホワイトウォッシングであるかと言えば、確かにそうかもしれない。だが全く気にならなかった。ホワイトウォッシングなら、2023年4月に開業するという「109シネマズプレミアム」の宣伝イメージの方が余程違和感がある。