可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ガール・ピクチャー』

映画『ガール・ピクチャー』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のフィンランド映画
100分。
監督は、アッリ・ハーパサロ(Alli Haapasalo)。
脚本は、イロナ・アハティ(Ilona Ahti)とダニエラ・ハクリネン(Daniela Hakulinen )。
撮影は、ヤルモ・キウル(Jarmo Kiuru)。
美術は、ローラ・ハーパカンガス(Laura Haapakangas)。
衣装は、ローザ・マルティーニ(Roosa Marttiini)
編集は、サム・ヘイッキラ(Samu Heikkilä)。
音楽監修は、ヤン・フォルストロム(Jan Forsström)。
原題は、"Tytöt tytöt tytöt"。

 

クラブでエンマ(Linnea Leino)が踊る。
体育館でホッケーをする女子生徒たち。皆がスティックを手に必死でボールを追いかけている。鼻にピアスをしたショートカットのミンミ(Aamu Milonoff)は1人離れてプレイに熱中する彼女たちをぼんやり眺めている。ミンミ! サーナ(Rebekka Kuukka)がゴール近くにいたミンミに向かってボールを回す。だがミンミはボールを受けようとしない。頼むからさ、少なくとも動こうとはしてくれない? サーナはミンミの交代を体育教師(Jantsu Puumalainen)に訴えるが、あなたは監督じゃ無いと却下される。でも、彼女はプレイしてません。プレイしないなら何でここにいるのよ。ミンミはサーナにゆっくり近付くと、突然スティックでサーナの足首を殴りつける。悲鳴を上げるサーナ。止めてよ! 止めれば? ミンミは止めて止めてと繰り返し叫びながらサーナに突っかかる。金髪のカーリーヘアのロンコ(Eleonoora Kauhanen)が慌ててミンミを止めようと2人の間に割って入る。ミンミは立ち去る。あんたを訴えるよ! サーナがミンミに向かって叫ぶ。
最初の金曜日。
ミンミが階段を降り、ベンチに座る。後を追って来たロンコが、ミンミの背中から覆い被さる。狂ってる。私が? 私たち2人のうち? じゃあ訴えれば。笑みを浮かべる2人。真面目な話、何があった? 苛ついてるの。大した内省だね。悪かったね。私の認知解釈は十分深く無かった? そうだよ。彼女たちは自分たちの妄想に私を参加させること望んでる。どんな妄想? 私がホッケーを真剣にやるべきだって。誰かが2本の柱の間に網を張ることを思いついた。棒を使って2本の柱の間にボールを打ち込めば勝者になる。そんなの馬鹿げてる。確かに。その解釈はさっきのよりは興味深い。間違いなく正当化してるもの、スポーツに真面目に取り組む人をホッケーのスティックで殴りつけることをね。ロンコの論考は下らないラジオ番組と一緒。クソみたいなトークだけ。もしラジオ局持ってたらどんなスローガンにする? いつでもいい曲、とか。
スケートリンク。コーチのタルヤ(Sonya Lindfors)が見守る中、フィギュア・スケーターたちが練習に励んでいる。エンマの滑りは、タルヤやエンマの母カロリーナ(Cécile Orblin)だけでなく、まだ幼いスケーターたちも熱心に見詰めている。嫋やかな振り付けを伴って滑るエンマが後ろ向きから踏み切りジャンプして3回転する。だが着氷が上手くいかず転倒する。体が少し傾いてる。ジャンプの前にエッジをもっと大きく。エンマはトリプルルッツの直前からの流れをくり返す。今よ! ジャンプして3回転したエンマは再び着氷に失敗する。頭を使って。やり方は分かってるでしょ。もう1度。三度チャレンジするが失敗に終わる。タルヤは諦めて次のシークエンスに移ろうと指示するが、エンマは跳びたいと訴える。先に進もう。跳びます! 分かったわ。一旦休憩、それからにしよう、いいわね。息抜きして来て。
体と心との結び付きを強めれば、自分にご褒美を与えることになります。ストレスに晒された体を回復させるのにも役立ちます。体に優しいマッサージをしていると想像して…。エンマはロッカールームでイルカの鳴き声や水の音と共に録音されたメッセージをヘッドフォンで聴きながら深呼吸していたが、乱れた心を落ち着かせることができず、乱暴にヘッドフォンを取り外す。
スケートリンクからの帰り道。カロリーナの運転する隣でエンマはトリプルルッツの動きをスマートフォンで確認している。母娘のやり取りはいつもフランス語だ。帰ったら練習する。フリーダ(Oksana Lommi)の誕生日会に行かなきゃ。彼女なら分かってくれるわ。ちょっとはゆっくりした方がいいの。選出されなかったら意味が無いでしょ! ヨーロッパ選手権に出たいの! パーティーに行きなさい。私はあなたの母親なの、これは決定。分かった。でも10時前には帰る。何言ってるの、パーティーは10時からよ。母親はカーステレオの音量を上げる。フランス語のヒップホップが黄色い車を満たす。リラックスして、踊りなさいよ。母娘は歌いながら体を動かす。
モール内にあるスムージー店。ロンコがスムージーをプラスティックのカップに注ぐ。カウンターで待つヤルモ(Mikko Kauppila)がロンコの姿を熱心に見ている。どうぞ、「ジャスト・ブリーズ」です。美味しそうでしょ。ありがとう。ヤルモはカードを取り出す。スタンプカード。もう1つ貯めると1杯無料ね。他には? 「ジンジャー・ショット」とかどう? 昏睡状態からでも目覚めるちゃう。どうかな、君に僕と一緒に何か飲んでもらうっていうのは、いつかさ。何にするかはお任せするけど。ロンコは固まってしまう。駄目かな? いい1日を。「ジャスト・ブリーズ」だね。じゃ。ヤルモが立ち去ると、一緒に働いているミンミがロンコに何があったのか詮索する。

 

ミンミ(Aamu Milonoff)は体育の授業でホッケーをしている際、ぼうっと突っ立っているのをサーナ(Rebekka Kuukka)から非難される。ミンミは突然スティックでサーナの足首を殴り着け、止めてと叫ぶサーナに止めろ止めろと喚きちらす。ミンミの親友のロンコ(Eleonoora Kauhanen)が何が気に入らないのか尋ねると、馬鹿げた競技に付き合ってられないと言う。
フィギュア・スケーターのエンマ(Linnea Leino)はヨーロッパ選手権の国内選考会が迫る中、コーチのタルヤ(Sonya Lindfors)とともに練習に励んでいた。得意のジャンプを活かし、難度の高いトリプルルッツを演技に組み込んでいるが、うまく跳ぶことができない。家に帰って練習を続けると言い張るエンマだが、母カロリーナ(Cécile Orblin)はフリーダ(Oksana Lommi)の誕生日会に参加して気分転換することにさせる。
ミンミとともにスムージー店でアルバイトをしているロンコは、客のヤルモ(Mikko Kauppila)からアプローチされるが、色好い返事を与えなかった。ミンミが理由を詮索すると彼に興味はあったものの情熱を感じなかったからと言い訳した。エンマが買いに来ると、ミンミがロンコに代わってカウンターに立たせてもらう。2人がにやついて接客するのにエンマは馬鹿にされたと腹を立てる。エンマがスムージーを手に友人たちの輪に戻り店員が狂ってると訴えると、フリーダは面白がって誕生日会にミンミとロンコを招待することにする。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

体育の授業で皆が熱心にホッケーをする中、ミンミは1人身が入らずにいた。真面目なサーナからやる気が無いなら交代すべきだと言われ、腹を立て、スティックでサーナを殴り着けてしまう。親友のロンコがミンミに理由を尋ねられた際、2人の間では敢て心理学的な用語――スウェーデンでは心理学が一般的に学ばれているのか、女子生徒が心理学に興味を持っているのかは定かで無い――を交えた会話が行われ、しかもロンコが深い分析が行われているかと口にする。それは鑑賞者にミンミ――鼻にピアスをした攻撃的な女子生徒――の抱える事情を推測するように促すためだ。
例えば、2人がアルバイトをしているスムージー店では、ミンミはエンマを馬鹿にする(少なくとも、エンマはそう捉える)。だが、エンマを見てミンミはロンコに接客を代わってもらっている。ミンミはエンマに興味があるが、それをうまく表わすことができない。また、ミンミの家で誕生日会に行く衣装を選んでいる際、ミンミは母サンナ(Oona Airola)が呉れた服をロンコにあげてしまい、もらうなら金の方がいいと言い放つのも本心ではない(一緒にいてもらうことをこそ望んでいる)。
ミンミは、サンナがペトリ(Lauri Nousiainen)との間にリオネル(Yassin Ei Sayed)が生まれ、家族からはじき出されたと感じている。抗鬱剤を服用しなければならないほどミンミは打ち拉がれていた。ホッケーでサーナが訴えた「選手交代」は、家族から外されたと感じるミンミの傷口に塩を塗るものであった。だからこそスティックで殴り着けるという暴挙――それは許される行動ではないにせよ――に出たのである。
ミンミがエンマを揶揄うような態度をとったのも、エンマに対して強い愛着を持っていたからだ。にやにやするのは照れ隠しに過ぎない。またきつい態度をとるのは、離れていってしまうのは自分の態度に問題があると自分を納得させるためである。
ひょっとしたら、サーナにもミンミは関心があったのかもしれない。サーナは直接ボールを打ち込まず、ミンミの名を叫んでパスしていたし、ミンミが好意を抱くエンマもまたサーナと同じく優等生タイプである(しかもともにホッケーとフィギュアスケートというスポーツが絡んでいる)。