映画『マネーボーイズ』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のオーストリア・フランス・台湾・ベルギー合作映画。
120分。
監督・脚本は、C.B. Yi。
撮影は、ジャン=ルイ・ビアラール(Jean-Louis Vialard)。
美術は、リャオ・フイリー(Liao Huei-Li/廖惠麗)。
編集は、ディーター・ピヒラー(Dieter Pichler)。
音楽は、シエ・ユン(Xie Yun/謝雲)。
原題は、"金錢男孩"。
リャオ・フェイ(柯震東)がホテルの部屋の前でドアが開くのを待っている。ベニーさん? ハン・シァオライ(林哲熹)が入るように首を横に振る。部屋に入るとクラシック音楽とシャワーを使う音がする。坐れよ。フェイをソファに坐らせ、自らも腰掛けるとワインを口にする。マックスだよ。お前は? ジャクソン。ベニーさんはラッキーだ。どこでお前さんを見付けたんだろうな。どういうこと? 褒めてんだよ、分からない? 選んでくれて感謝してるんだ。何をするか言ってくれればその通りにするよ。緊張しなくていい。早漏だから。中年太りの男がシャワーを終えて鼻歌交じりにベッドへ向かう。シァオライがフェイを促す。
バイクでシァオライが待っていると、フェイが駆け寄ってバイクの後ろに跨がる。行こうか。
ブティックでフェイがシャツを試着する。似合ってるな。シァオライがフェイの姿を見詰める。だけど高すぎるよ。気にすんな、行こう。
カラオケ店。シァオライがマイクを握り、歌っている。この街で笑い、涙を流す/この街に生きて、骨を埋める/この街で祈って、はぐれたと思う/この街で求めて、打ち拉がれる/北京、北京…。坐って聞いていたフェイがマイクを握って立ち上がり、歌い始める。離ればなれさ街の灯りと月明かりほど/藻掻き苦しみ、慰め合い抱き締め合う/その手に摑もうと追いかけた夢は見る影も無い/二人で笑い、涙を流す/二人で生きて、骨を埋める/二人で祈って、はぐれたと思う/二人で求めて、打ち拉がれる/北京、北京…。
フェイが煙草を吸って時間を潰している。集合住宅の5階にあるシァオライの部屋の前へ。ドアをノックするとシァオライが現れる。シァオライは周囲に人がいないことを確認するとフェイにキスをする。抱き合った二人は部屋の中へ。
フェイがシァオライの上に乗って腰を使う。シァオライが射精するとフェイは洗面所へ向かう。お前は出さなくていいわけ? 後で客取るから。がっかりさせちゃ不味いよ。
クラブでフェイがバオ(楊誌龍)の相手をしている。シァオライがバオに挨拶し、乾杯する。今夜はいかがです? 最高だね。それは良かった。シァオライはフェイにちょっと来いと声を掛ける。バオさん、すいませんね。バオさん、ちょっと外します、すぐ戻りますから。出て行こうとするフェイの前にバオが脚を出して停める。バオさん、彼はすごく親しい友人なんです。急ぎだと思います。じゃあ俺は? バオさん、怒らないで下さいよ。戻ったら3杯飲みますから。どうです? いいねえ、3杯だからな。恩に着ます、バオさん。出て行くフェイの尻をひっぱたくバオ。階段でシァオライがフェイを待っていた。ずらかろう。あいつはヤバい。僕のことは構わないでくれるかな? 俺の言うことを聞いて置けよ。あの手の連中は腐るほど見てきたんだ。あんたは選り好みして稼げるんだろうけど、僕には無理なんだ。母親をがっかりさせられないから。仕送りしてるのは分かってる。ただお前の置かれた状況を考えろよ。あいつがどんな奴か分かってるのか? 話はそれだけ? フェイはバオの接待に戻る。
朝。フェイがシァオライの部屋へ帰って来る。動作が鈍い。溜息をついて水を飲む。ベッドにいたシァオライが体を起こして煙草を吸う。朝ご飯を買ってきたんだ。フェイの顔には怪我があり、シャツの腹部には血がべっとりと付着している。昨日は悪かったね。シァオライはフェイの異変に気が付き、近くで傷を確認する。
雨が降る。魚屋の店頭でフグの泳ぐケースをシァオライが手にした鉄の棒でかき回す。シャオライは池の前のテラスで一人酒を飲むバオに近付く。バオの背中に向けて棒を思い切り打ち下ろす。続けざまに腕に振り下ろし、逃げるバオにさらに打ち付ける。
リャオ・フェイ(柯震東)は故郷で病床に伏せる母親のため都会に出て男娼になり、手解きをしてくれたハン・シァオライ(林哲熹)と恋仲になった。ある晩、フェイがクラブでバオ(楊誌龍)の相手をしていると、シァオライがバオはまともな奴じゃないとすぐ逃げるよう助言する。フェイは仕送りのため客を選り好みする余裕がないと従わない。翌朝腹部を刺されるなど重傷を負ったフェイを見たシァオライは復讐のため一人でバオを襲う。シァオライはバオを打ちのめすが、バオの手下の加勢によって不利となり、バオにハンマーで脚を砕かれた。シァオライの部屋に警察の捜索が入る。間一髪で免れたフェイはそのまま行方を眩ませた。それから5年。フェイは別の街で男娼として成功していた。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
フェイは故郷の病床にある母親のために都会に出て男娼となり仕送りする。だがたとえ家計を支える貢献をしても、結婚して子供を持たないこと、まして男娼であることは非難の対象にしかならない。
男娼であることの困難が身に染みているフェイは、同郷のロン(白宇帆)が自らを頼って来た際に男娼となることを阻止しようとする。
帰省したフェイが都会に戻る際に乗るバスが雨の中、九十九折りの坂道を下る運転席からの景観は、フェイの気持ちが大きく揺れていることを視覚的に表わす。
カラオケ・ボックスの横に長い壁、シァオライの部屋を訪れる前にフェイが時間を潰す集合住宅の下の円形の池とそれを挟むスロープの作る三角形、フェイの暮らす部屋へ通じる階段、フェイがシァオライとともに歩く屋根のある歩道橋(?)など、幾何学的図形が現れる画面をじっくり見せるシーンが印象的。
バオの相手をしたクラブの階段は、フェイとシァオライの進む道が別のものになることを暗示する。ならば、歩道橋(?)でのフェイとシァオライは、二人が再び同じ道を歩むことを示唆するだろうか。
フェイがセックスで射精しないのは、フェイが孤独であり続けることの象徴なのかもしれない。シャンドン(盧彥澤)とルゥルゥ(曾美慧孜)のように結婚して子供を持つという社会の要請に応えることができないとフェイは感じている。脳裡に去来する美しい思い出だけを頼りに生きてくことになるだろうか。