可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『植物と歩く 練馬区立美術館コレクション+』

展覧会『練馬区立美術館コレクション+植物と歩く』を鑑賞しての備忘録
練馬区立美術館にて、2023年7月2日~8月25日。

練馬区立美術館の所蔵作品から植物をモティーフにした作品80点弱に他館所蔵の植物図譜・植物標本を併せて展観する企画。晩年を練馬区で過した牧野富太郎の植物画や植物標本などを紹介するプロローグ「植物の観察」、花を描いた作品を集めた第1章「花のうつろい」、主に夜を舞台にした作品で構成される第2章「雑草の夜」、大小島真木が2020年に同館で滞在制作した《胎樹 / Fetus tree》などを中心とする第3章「木と人をめぐる物語」、淀井彩子と麻田浩の作品を並べたエピローグ「まだ見ぬ植物」の5つのセクションで構成される。

タイトルの「植物を歩く」という不思議な言葉に食指が動く。その言葉にに籠められた「植物の営む時間と空間に感覚をひらき、ともに過ごす」との意味が腑に落ちるかと言われれば微妙だが、地味な所蔵品(全体的に暗い作品が多い)の世界を違う角度から眺めるように――例えば、ピクミン(植物が歩いてる?)の視点で日常のありふれたものを見るように――促される。
タイトルとともに秀逸なのが、プロローグ「植物の観察」である。練馬区に縁がある牧野富太郎の植物図譜(個人蔵)・植物標本(東京大学総合研究博物館蔵など)に取り合わされるのは、竹原嘲風[025-028]・小野木学[029-035]・倉科光子[036-039]の作品である(但し、須田悦弘の《イヌタデ》[109]が隠れている)。牧野と3人の作家はいずれも独学で自らの道を切り拓いた点で共通する。自分の興味・関心の大切に世界を眺めることの大切さが訴えられている。

第1章の「花のうつろい」からして、花をテーマにしている割に暗い作品が並ぶ。中川一政《向日葵》[040]のヒマワリに負けない花器の人物装飾、福井爽人《冬の静物》[046]に冬の花ではないヒマワリやアジサイ、塩出英雄《芙蓉》[045]の芙蓉と対峙する不機嫌そうな少女、散らばった花弁を下に倒立する須田悦弘《チューリップ》[049]、靉光《花と蝶》[054]の花に擬態する(花ではない)黒揚羽、同じく靉光《ばら》(参考出品)はフランシス・ベーコンよろしく口を開けて叫ぶ人の顔に見える。佐藤多持[055-059]は水芭蕉に取り憑かれている。草間彌生[064-070]は水玉や男「根」に取り憑かれている。

第2章は「雑草の夜」であり、闇が舞台の作品が多くを占める。佐多勝の《野霧》[072-073]、斎藤長三《夜の庭》[080]、田所量司《樹心》[085]などは夜を描いている。夜ではなくとも(おそらく夕景)、榑松正利《夢》[078]は植物の繁茂する野原に立つ石の構造物に目が顕われる、ある種悪夢である。

第3章「木と人をめぐる物語」には、大小島真木の巨大な作品(3680mm×5468mm)《胎樹 / Fetus tree》[097]が展示されている。生と死、人と植物を結び付ける作品に連なるように本展覧会が構成されていたことが分かる。そして、集められた作品の暗さは、死ないし闇の面から生命を捉えようと意図されていたのである。花卉画が暗くてもいいのだ。闇があってこそ光があるのだから。眺めようではないか、草葉の陰を/から世界を。