可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 榮村莉玖個展『CONNECTION』

展覧会『榮村莉玖「CONNECTION」』を鑑賞しての備忘録
新宿眼科画廊〔スペースE〕にて、2023年11月17日~22日。

屋内を多視点の組み合わせで描いたと思しき絵画3点(各1455mm×970mm)で構成される、榮村莉玖の個展。二畳間ほどの空間の3つの壁面に1点ずつ作品が飾られている。

《2023.10.27》は、台所の景観。右下にはショッキングピンクの流しがあり、俎板の上には輪切りにされたサツマイモと格子の布巾が置かれている。流しに対する斜め上からの視角とは異なり、右上には見上げるように収納棚やキッチンペーパーのロールが描かれる。画面中央上側には、タイルの壁面の上の俎板とカットされたサツマイモがある。その向こう側には曇りガラス越しの庭の景観が――植栽らしき緑の影――が拡がる。画面左端にはデニムのパンツに山吹色の上着を合わせた人物が立つが、胸より上の部分や足元の床が描きかけのように荒々しい筆のストロークが残される。台所の景観は断片的に切り取られ、画面上で併置される。輪切りのサツマイモとキッチンペーパーのロール、人物の切断面のように人物の胸部辺りに浮く白い円は、バラされたイメージを再び接続するためのジョイントとして機能しているようだ。切断により接合の必要が生じるのであり、一体なら接続の必要は無い。切断カットして放置されたサツマイモも、描きかけの立てる人物も、この切断=接続の絵画のアナロジーである。
《2023.11.15》は画面下半分に緑の床を配し、上半分には襖――あるいは家具(の扉)――とそこに映る人影とを描く。左側には青い暖簾が懸かっている。襖(ないし扉)は切断であり、暖簾は接続である。緑の床に配される白線は暖簾の画面左の暖簾の方に曲がって伸び、視線を誘導する。それは、左側に位置する作品《2023.11.11》へと接続するようである。
《2023.11.11》は、飲食店のテーブルで向かいに坐る人物を描く。但し、人物はベージュのジャンパーやワインレッドのインナーのみで表わされ、身体は透明人間のように描かれていない。卓上の2つの黒い盆、壁のメニューの黄色い紙が四角形の連なりを作るが、それは恰も飛び石のようである。
否、飛び石に違いない。作家は二畳ほどの展示空間を茶室に見立てたのである。《2023.11.15》に露地(緑の床と白線)、茶室(人影の浮かぶ襖)、暖簾(躙り口)を表わし、《2023.10.27》の台所は炉、サツマイモは茶請けであった。そして、《2023.11.11》の透明人間は不在の亭主である。《2023.10.27》の○(複数の切断面の円)、《2023.11.15》の△(右上隅に三角形)、《2023.11.11》の□(盆とメニュー)は仙厓の《○△□》よろしく宇宙を表わす。二畳の展示空間は、作家を主人とする「一客一亭」の茶室であり、宇宙でもある。閉じ(切断し)つつ開かれ(接続され)ている。