可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 愛甲次郎個展『ピアニシモな鎧』

展覧会『愛甲次郎「ピアニシモな鎧」』を鑑賞しての備忘録
TAKU SOMETANI GALLERYにて、2023年12月20日~2024年1月21日。

雲肌麻紙に鉛筆と墨とで描いた、往年のモノクロームのハリウッド映画のワンシーンのような肖像画で構成される、愛甲次郎の個展。

出展される作品は何れも無題で、以下のような特徴がある。背景の半分以上を占める、左右に幅の異なる余白を残しつつ薄墨を刷いた方形の領域がある。アーチ状の細い線が引かれ、複数ある場合には配置がずらされている。主要なモティーフは、顔が描かれない、ハリウッド映画の登場人物の胸像ないし上半身像である。1人、2人、4人と作品に登場する人数は異なるが、布あるいは紙を花のように膨らませたものが衣装のようにそれぞれを覆い、さらには、1人1人に細い白線を中央に走らせた柱のような幅のある黒線が中心を縦に貫く。作品を最もユニークなものとしている黒い柱は途中で折れ曲がって突き出したり彎曲したりする。人物の輪郭をなぞるように、だが必ずしも輪郭そのものではない黒い弧が、人物の周囲に撥ねるように飛び飛びに配されている。
人物ごとの黒い柱は、その人の「琴線」を表わすようだ。そして「琴線」は同時に個人を識別する「バーコート」となる。衣装のように衣服の外を覆う花のようなものは心の「襞」であり、「琴線」や「襞」の震えが周囲に波紋となって拡がることが弧で示されているのかもしれない。

光る斧

 

もっとしずかに
あけてやらないと
そのふた、獰猛になるよ
わっとな泣きだしたい気持ちをおさえて
おおうものとなっていたのだ

 

星も
地面に倒れている人間も
眺めるのは飽きた
意見も主張もないさ
ただ、ここまでと線をひかれた
その向こうに出ていって
出ていって
こわれる気なのだ

 

どんな川をわたり
なにを薄くしたか
まちがって、こんなところに
出てしまったと思う
その心のすきに
ふりおろされるのだ
光る斧

福間健二『現代詩文庫156 福間健二思潮社/1999/p.52)

黒い柱の中心に入れられた白線は、人々の身に付けた「ピアニシモな鎧」が、「光る斧」、すなわち言葉によって一刀両断にされる様を彷彿とさせる。