可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 森山大道個展『TOKYO』

展覧会『森山大道個展「TOKYO」』を鑑賞しての備忘録
Akio Nagasawa Gallery Ginzaにて、2024年1月11日~3月30日。

モノクロームの写真で構成される、森山大道の個展。

2段4列の8点組が3つある。そのうちの1つは、クラブあるいはキャバレーの入口に姿を現わす女性と、柱を摑むマニキュアをした女性の右手越しに捉えたガード下を左上と右下に、古いアパルトマンと、斜め格子で覆われた窓と駐めた自転車を右上と左下に配している。中央には、ビルの壁面にうねる排気ダクト、雑居ビルのファサードを埋め尽くす看板、ストリップ劇場の入口、ポルノ専門の映画館の4枚を並べている。ハレとケ、プライヴェートと仕事、その間に欲望がのた打ち、あるいは氾濫する構成である。正円として姿を見せる後輪とカメラに向かってタイヤが斜線となり歪んだ円が影として現われる自転車もコントラストを増幅させている。看板の文字は欲望が記号によって喚起される消費社会を象徴するようだ。
8点組のもう1つには、洗濯洗剤の箱がびっしり並ぶ様を捉えた写真があり、消費社会がテーマにされている。(印刷物の接写であろう)網点で表わされた女性の口元や、事件現場のように液体が流れ出る道路の写真も相俟って、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の影響が明白である。

白眉はメインヴィジュアルに採用されている網タイツを身につけた女性の脚を接写した作品6枚組である。複数の角度から組み方を変えた脚の表面を覆うタイツの網目は、伸縮して様々な形を取る。変化しながら連続する網目は視線を吸引する迷宮であり、蠕動する軟体動物さながらでもある。エロティックさはもとより、幾何学図形の面白さも兼ね備え、見飽きない。

Y字の道路照明ポールが霧のかかったような高架の中に数本点在する作品がある。灯りに引き寄せられる蛾が羽を拡げたままY字の照明ポールに変じたとの空想に誘われる。鑑賞者もまた夢のような作品世界に吸い込まれている。