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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 林田真季個展『Water & Mountains:エコロジーと社会をめぐるワンダーランド』(第17回 shiseido art egg 第1期)

展覧会『第17回 shiseido art egg 第1期 林田真季「Water & Mountains:エコロジーと社会をめぐるワンダーランド」』を鑑賞しての備忘録
資生堂ギャラリーにて、2024年1月30日~3月3日。

イギリスの海岸低地に1200箇所以上存在する、環境規制導入以前に廃棄物の埋め立て処理が行われた「歴史的海岸最終処分場(historic coastal landfill)」をテーマにした《Water Wonderland》や「Re-collection」シリーズ、東京の清掃工場の煙突を描いた銅版画《The Stacks》などで構成される、林田真季の個展。

《Water Wonderland》は「歴史的海岸最終処分場(historic coastal landfill)」を撮影したモノクロームの古写真に手彩色を施し、他のイメージを重ね、さらに様々な歴史的海岸最終処分場の映像を投影した作品。手前には所々に洲がある浅瀬、その奥に草原に覆われた岸辺、奥にはなだらかな丘陵地帯が拡がり、画面上部3分の1は空が占める。浅瀬に点在する赤い箱状のものは埋め立て地の存在を示す標識であろうか。水の青、草や木々の緑、空の橙は、不自然な色味で手彩色とすぐに分かる。自然環境の人工的な改変を象徴しよう。のみならず、歴史的海岸最終処分場は19世紀後半頃から存在したようだが、手彩色写真の制作された時期と重なるために採用されたのだろう。手彩色の職人の多くは逸名で女性であったという。舞い降りて水面を滑る水鳥の姿、流れる雲やそよぐ草の映像が重ねられる。題名《Water Wonderland》はロンドンのハイドバークで開催されるクリスマス催事"Winter Wonderland"並びに『不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)』に因む。環境規制導入以前までの最終処分場であっても、汚染物質流出の危険は期間限定とは行かない、汚泥(mud)の海への大量投棄((Boston) Tea Party)、すなわち「気違いのお茶会(A Mad Tea-Party)」である。

東京都の特別区の清掃工場の煙突21本をモティーフとした《The Stacks》は、版であるプレート自体を展示している。焼却灰を混ぜたインクを載せることが困難であるために原版の並べて見せることになったという。青い金属板に白く現われる構造物はいずれも現実に存在するものだが、野又穫の描く建築物のように、どこか現実離れして見えるのが不思議である。

「Re-collection」シリーズでは、歴史的海岸最終処分場で採取されたガラス壜の破片がモティーフとされている。《Re-collection Ⅰ》は淡い緑色のガラス片(会場内に実物も展示されている)の写真を引き伸ばしてライトボックスに入れて見せる作品で、《Water Wonderland》の海岸地形を想起させる。また、その表面に入ったひび割れは葉脈のようにも見える。《Re-collection Ⅱ》の5点は複数のガラス片で構成され、鉱物を顕微鏡で覗いたようなイメージを呈する。青みがかったものやオレンジがかったものなど、様々な色味と形を持つ断片を円形の画面に仕立てた《Re-collection Ⅲ》は宝石のような観を呈する。ポリエステルの布に廃棄物を印画した《Re-collection Ⅴ》は、サイアノタイプのような青い画面で、《The Stacks》に連続する。