可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 宮林妃奈子個展『土に隠れた文字のしっぽ』

展覧会『宮林妃奈子「土に隠れた文字のしっぽ」』を鑑賞しての備忘録
Gallery38にて、2024年1月19日~2月25日。

布や紙などの支持体を切り貼りして絵具と等価に扱った絵画24点で構成される、宮林妃奈子の個展。

《月の日を追う》では、板の横方向の木目を風に見立て、布を細く切り裂いたものを貼り付けて木々を表わし、黄・緑・赤の絵具で月、葉、花を描き、さらに砂(?)のような粒状の物を画面に散らして、風の動きを強調している。《大きな土の手紙》でも、破れや端の毳などをそのままに茶色い麻布を重なりや浮きなどに構わず貼り付けて、別の描画した布とともに画面を作っている。支持体となる布・紙・板が、とりわけ布や紙が絵具と等価に扱われている。《ひろう木の葉》では描画した画布の上に別の布を重ねてさらにモティーフが描かれ、着物の襲に通じる感覚が認められる。

《ぼっこのむこうに》のクリーム色の画面の左側には、長方形に近い形に切断された灰茶の布が3枚、地図記号の荒地、あるいはテトラポッドのように、下段に2枚を組みに、その上にもう1枚を貼り付けてある。その上側1枚・下側2枚のそれぞれに重ねるようにして黒い線が無造作に断続的に描き込まれている。上側の線は、画面上段の中央の擦れたモティーフに行き着く。それは雲であるかもしれない。下側の線は画面右端に貼られた細長く切り裂いたキャンヴァスに達する。左手前から右方向へ、1つは上方に、もう1つはやや奥に視線を誘う。「荒地」が「ぼっこ」なのだろう。「ぼっこのむこうに」世界が広がっている。さらに、「ぼっこ」の上からは薄い紙が、空気が入って浮くのも構わずに貼り付けてある。こちらは「ぼっこ」の手前に存在する空間を表現するようだ。「ぼっこ」を取り巻く環境を立体的に「平面」で表現しているようだ。等伯の《松林図屏風》に通じる、湿度のある、茫漠とした世界が拡がる。そして、「ぼっこ」に視線を向ける作家――その眼差しを共有する鑑賞者――は、「ぼっこ」の立場に身を置くことになる。「ぼっこ」は2本の脚で立つ「人」の形象であった。その上方・奥・手前の拡がりが象徴するのは、未来・現在・過去であり、それらは混淆している。