可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『恵比寿映像祭2024 月へ行く30の方法』

展覧会『恵比寿映像祭2024 月へ行く30の方法』を鑑賞しての備忘録
東京都写真美術館にて、2024年2月2日~18日。

映像の表現と受容の在り方が多様化する中、国内外の映像表現を通じて「映像とは何か」という問いを投げかけるシリーズ。第16回を迎える「恵比寿映像祭2024」では「月へ行く30の方法」(土屋信子の個展タイトル「30 Ways To Go To The Moon 月へ行く30 の方法」展(2018)より引用)を総合テーマに掲げ、ロケットを打ち上げるのではない――合理性や効率性だけではない――社会的な理想実現や課題解決の方途に思いを巡らせさせる。

奥村彰一は園林や絵画を始めとする中国文化の入れ籠の楽園の構造をテーマに絵画の制作を行っているが、行幸地下ギャラリーにて開催中(2024年1月12日~3月17日)の『Window Gallery in Marunouchi―from AATM』の出展作品《ムーンローバー ピクニック》では月面探査車から画面下に真っ逆さまに身を躍り出す。ピンクの宇宙服の女性の手の先にはピンクの鯉の泳ぐ蓮池が広がり、葉陰には宇宙飛行士の佇む四阿がある。水中ないし地球へ沈潜すると、一回転して画面上部の月へと至る構造となっている。鯉は龍となって月へと打ち上がるのである。まさしく月へ行くための1つの方法であろう。

ギャラリーαMの展覧会シリーズでは石川卓磨が「開発の再開発」をテーマに掲げ、芸術に求められる新奇さを開発するという概念自体を、批判的に検討する試みも、「月へ行く30の方法」と軌を一にしている。

ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ《Caducean City》(2006)[06/2F]はボローニャ近代美術館から美術館の役割とは何かと問われ制作された映像作品。サイレンを鳴らして救急車を高速で走行させ、その車窓に擦過する風景をヴィデオに収めた作品。常識で判断すればあり得ないとしてもそこに表現としての価値があるのであれば、多数派に譲歩を迫るための努力が求められる。さもなければ美術館は表現(少数意見)を守ることは無くなってしまう。それは結果として経年劣化する社会を更新する安全装置ともなりうる。

ジョアンナ・ピオトロフスカの《Animal Enrichment》(2019)[10/2F]は飼育動物のための玩具やオブジェを人が用いている様子を淡々と捉えた作品。動物に対して出来ることは人に対しても出来てしまう。ジョン・バルデッサリの《植物にアルファベットを教える》(1972)[07/2F]はその名の通り植木鉢の植物にアルファベットを順に見せて発音してみせる。「シーシュポスの岩」のような徒労、あるいは人間相互コミュニケーションもその程度と短絡するのではなく、むしろ植物の記憶に思いを馳せるべきなのかもしれない。