可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 束芋個展『透明な歪み』

展覧会『束芋「透明な歪み」』を鑑賞しての備忘録
ポーラ ミュージアム アネックスにて、2019年4月26日~6月2日。

アニメーション2点と、9点の絵画による束芋の個展。

《ふたり》は、裸電球1つの暗い室内に並んだ二棹の同型の箪笥とその内部とを描き出すアニメーション。箪笥には鍵がかけられ、裸電球に照らされて暗い影をのばす。箪笥の棚に整然と収納された衣類からは足や手や髪が伸び、あるいは箪笥の内部が室内空間へと姿を変え、脳が回転し、ゆっくりと鳥が飛ぶ。2つの箪笥は同じ空間(=生活=秘密)を共有しているようで、差異ないしずれが少しずつ生まれている様子が描き出されている。

壁に仕切られた通路の突き当たりに設置された《ループドロップ》は、タイル張りの通路を堂々巡りするアニメーション。水が溢れ出す洗面台や、蔦のような植物が伸びる窓、時計の針の位置などから、同じ場所を巡っているようで、時間経過や変化を示している。倒れ込む女性の裸体、うごめく幼虫のような生き物などの存在と、作品に噛み合った音楽とが、繰返され終わることのない悪夢を彩っている。

床に敷かれた絨毯の模様に同化するように描かれた《深いところ》、2脚の椅子にまたがるように置かれた《3つの感情》、箪笥の中に置かれた《親の気持ち》をはじめ、個々の絵画はその周囲との境界を跨いだり、曖昧にする効果を狙って、家具の点在する空間に展示されている。鑑賞者を作品の内部に迷い込ませる効果も狙われているだろう。

絵画《出会い》の女性の顔面を覆うエーテルのような不定形の流体は、作者が世界を眺める際に現われるプリズムだろう。無論、それは作者だけではなく、誰もがものを見るときには、屈曲率の様々なレンズに覆われてしまうのだ。作者が異なるのは、自らのレンズそのものをエンターテインメント性を持つ作品に昇華している点だ。