可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

本 ベル『ささやかな頼み』

ダーシー・ベル『ささやかな頼み』〔ハヤカワ・ミステリ文庫449-1〕早川書房(2017年

)を読んでの備忘録

Darcey Bell, "A Simple Favor"(2017)

東野さやか訳

 

女性誌で記者をしていたステファニーは、取材で建築家のデイヴィスと知り合い、結婚する。息子マイルズが生まれた後、デイヴィスは都会は子育てに向かないと、ニューヨークからコネチカットへと引っ越すことに決めてしまう。ニューヨークへ通勤するデイヴィスは家事や子育てをステファニーに任せっきり。ステファニーは優れた妻であり母であろうと必死だが、地元の母親たちとうまが合わない。自分のような境遇の母親とつながりを持つためにブログを始め、不安と孤独とに耐えていた。自動車事故でデイヴィスを失ったときも、ブログに寄せられたコメントに励まされたこともあって、何とか乗り切った。息子が幼稚園に通い始めて数ヶ月が経った頃、急な雨に濡れながらマイルズを待つステファニーに、高級ブランドの服を着こなす女性が大きな傘を差し掛けてくれた。マイルズが仲良くしているニッキーの母エミリーだった。子供とともにエミリーの自宅に招かれ、ステファニーは初めてママ友をつくることができた。夫の保険金で生活する専業主婦のステファニーにとって、エミリーはニューヨークのアパレル企業の広報として勤務する羨望の的だった。金曜日以外は多忙なエミリーに代わってアリソンというシッターがニッキーを園に迎えに来ていた。ステファニーは、急な仕事が入ったエミリーから、ニッキーの世話を頼まれることがときどきあった。そんなとき、エミリーはステファニーに頻繁に連絡を入れるのが常だった。ところがある日、エミリーは、ニッキーの迎えをステファニーに頼んだまま、一切の消息を絶ってしまう。エミリーが何らかの事件に巻き込まれたと判断したエミリーは、エミリーの夫ショーンに相談して警察に捜索願を出す一方、ブログを活用して自ら情報を集め始めるのだった。

 

ポール・フェイグ監督の映画『シンプル・フェイバー』の原作。アナ・ケンドリックがステファニーを、ブレイク・ライブリーがエミリーを演じた。「誰にだって秘密のひとつやふたつはあるわ」がキー・フレーズになっている。映画では、ステファニーのブログが動画になっていることを始め、エミリーの夫ショーンが(投資会社勤務でなく)大学で職を得ていたり、ステファニーがエミリーの勤務先や実家で「捜査」を行ったりと変更点が見られる。とりわけ、ステファニーとエミリーの対峙が描かれる終盤は原作と大いに異なっている。映画を見た人は読み比べてみると良い。