可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 坂本夏子個展『迷いの尺度 シグナルたちの星屑に輪郭をさがして』

展覧会『坂本夏子個展「迷いの尺度 シグナルたちの星屑に輪郭をさがして」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2019年6月8日~7月6日。

「尺度」や「シグナル」などをキーワードに制作された坂本夏子の作品展。細かな円・四角形などが繋がるように描き込まれた大画面のペインティング、人物が登場する多数のドローイング、何が飛び出すかは開けてのお楽しみの箱の立体作品など、多彩な作品が並ぶ。

 

自分自身を離れて何か(他者・世界)を理解することはできるのだろうか。何かを理解するためには、自分の持つ感覚を何かに当てはめてみる他にないのではないか。そして、自分の持つ感覚を当てはめることができるように、何かを切り分けたり、つないでみたりという作業が必要になる。世界を呑み込むデジタル・データも、元を正せば、digit(指)という身体的単位への分解と統合だ。
坂本の作品に現れる星座と身体とは、宇宙(マクロコスモス)を身体(ミクロコスモス)との照応という、アナロジーによる世界理解が示されている。円や四角、あるいは網(ネット)、身体(感覚)の抽象化ないし形象化だろう。箱の作品(《BOX PAINTING》のシリーズ)で部屋や海岸を小さな空間に閉じ込めるのは、他者や昆虫などへ同化のための装置としてである。それは、役者不在の劇場を模した立体作品を設置し、来場者自らに他者を演ずること(=同化)を求めていることからも分かる。ご丁寧にもその劇場には階段が大きく配され、拡大(上昇)と縮小(下降)とを変幻自在に行うよう促されるのだ。

 パワーズ・オブ・テン〔引用者註:イームズ夫妻監督・脚本の映画〕のベキ数を上昇させていくと、先ほどまで見えていたはずの星座は徐々にかすみ、埋もれていく。しかし、にわかに輝きだした光の洪水の中に、私たちはきっと新しい形の星座をみつけるに違いない。なぜなら私たちはいつも星座を探しているのだから。
 パワーズ・オブ・テンのベキ数を下降させていくと、生命現象の原因と結果をつないでいたはずのカスケードは、蜘蛛巣の迷路の中に溶け込んでいく。しかし、新たに見出された細い糸と結び目を辿って、私たちは必ず新しい経路にたどりつくだろう。なぜなら私たちはつねに道を拓こうとするマップラバーだから。(福岡伸一『世界は分けてもわからない』講談社現代新書講談社](2009年)p.271)