可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ある人質 生還までの398日』

映画『ある人質 生還までの398日』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のデンマークスウェーデンノルウェー合作映画。138分。
監督は、ニールス・アルデン・オプレブ(Niels Arden Oplev)。
原作は、プク・ダムスゴー(Puk Damsgårds)の『ISの人質 13カ月の拘束、そして生還(Ser du månen, Daniel)』。
脚本は、アナス・トーマス・イェンセン(Anders Thomas Jensen)。
撮影は、エリック・クレス(Eric Kress)。
編集は、アンネ・オーステルード(Anne Østerud)とラース・テアケルセン(Lars Therkelsen)。
原題は、"Ser du månen, Daniel"。

 

白いユニフォームに身を包んだ体操選手たちが階段を降りてくる。一団は通路を抜けて、アリーナへ。デンマークの代表チームが、海外遠征を前にエキシビションを行うのだ。選手団の中には、ダニエル・リュー(Esben Smed)の姿もあった。家族や恋人が見守る中、何度目かの跳躍を行った際、ダニエルは着地に失敗して足首を捻ってしまう。呻き声を上げるダニエルはその場で動けない。
選手団が海外遠征に出発する朝、ダニエルは恋人のシーネ(Sara Hjort Ditlevsen)と部屋で過ごしていた。飛行場から仲間たちが送ってきたメッセージをスマートフォンで眺めた。私の部屋で一緒に暮らそう。ソファを置く場所もないだろう。ずいぶんな断り方。体操一筋の生活を送ってきたダニエルは選手生命を断たれた今、身の振り方を考えなければならなかった。大学生のシーネは勉学に忙しい日々を送っていた。
ダニエルはシーネを連れて実家を訪れる。父ケール(Jens Jørn Spottag)と甥っ子たちが遊んでいる姿をダニエルは写真に収めていた。皆で食卓を囲んでいると、姉のアニータ(Sofie Torp)がダニエルに詰問する。体操ばかりでろくに勉強をしてこなかったのに、これからどうするつもりなの、と。アニータは、母のスサンヌ(Christiane Gjellerup Koch)がダニエルに対して甘すぎると考えているのだ。ダニエルは写真の道に進むつもりだと言う。写真学校に通うのかと尋ねられたダニエルは、写真家に師事すると答える。コペンハーゲンに出て、シーネと同居することも報告した。妹のクリスティーナ(Andrea Gadeberg)が出会い系のサイトでいい人を見つけなよと厳しい姉に茶々を入れると、皆が笑う。
コペンハーゲンでシーネとの同居生活を始めたダニエルは、雑居ビルの中の一軒の写真ギャラリーに入る。許可無く入るな。巨漢がのっそりと現れる。ドアが開いていたので。作品の持ち込みをすると連絡した者です。写真家トゥー・ベル(Rasmus Bjerg)は電話に応答している間、ダニエルから受け取ったポートフォリオを眺める。街中のスナップは悪くない。僕もそれをやりたいんです。パスポートは持ってるか。はい。助手の件は解決したとトゥー・ベルは電話を切る。ダニエルは彼の助手としてソマリアへ飛ぶことになった。トラックの荷台に揺られて道なき道を進み、紛争地に入っていく。顔つきがまだ幼い少年たちが銃を手にしている姿をあちらこちらで目にする。怪我をした者たちが収容された施設で、トゥー・ベルが死者の撮影に取りかかる。付近で撮影していろと指示されたダニエルは、サッカーをしていた少年たちを見かけ、彼らに交じって撮影を始める。紛争地域の中にも見出せる普遍的で日常的な光景を切り取ることを撮ることをテーマにしようとダニエルは決意する。
帰国したダニエルは、実家に趣き、撮影でシリアに向かうと切り出す。スサンヌは危険だと案じるが、紛争地ではなくトルコ国境付近だから問題ないと告げる。就いては旅費を捻出するため、ケールに車を買い取って欲しいと相談する。クリスティーナも交渉をアシストし、ダニエルは車の換金に成功する。
ダニエルはトルコへ飛び、シリアとの国境検問所に向かう。ダニエルは緊張しながら歩いてシリアへと入る。「シリアへようこそ」との看板がかかっている。ダニエルのそばに自動車が停まり、現地ガイドの女性(Sofia Danu)がダニエルに声をかけ、車に乗るよう英語で訴える。ダニエルは車に乗り込むのだった。

 

怪我で体操の選手生命を断たれたダニエル・リュー(Esben Smed)が、写真家として再起を期すべく取材でシリアに向かい、武装勢力に拉致・監禁された顚末を描く。人質の過酷な状況だけでなく、身代金を要求される人質の家族や関係者の立場が重要な柱として描かれている。とりわけ、恋人シーネ(Sara Hjort Ditlevsen)の追い込まれた方は悲痛だ。
コントロールする力を持たない者が権力を持つとはどういうことかを、武装勢力の看守を例に示してくれる。
目つきや肌つやが、人質の状況に希望が持てるかどうかの指標となる。
交渉人のアートゥア(Anders W. Berthelsen)が冷静沈着かつ確実に仕事を進めていく姿が、Robert Downey Jr.が演じるトニー・スタークが現実世界に存在していたらという感じで、素晴らしく魅力的。