可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ミナリ』

映画『ミナリ』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のアメリカ映画。115分。
監督・脚本は、リー・アイザック・チョン(Lee Isaac Chung)。
撮影は、ラクラン・ミルン(Lachlan Milne)。
編集は、ハリー・ユーン(Harry Yoon)。
原題は、"Minari"。

 

1980年代のアメリカ。1台のレンタルのトラックとそれに続く乗用車が、アーカンソー州の農牧地を抜けていく。モニカ(Han Ye-ri)の運転する車には、娘のアン(Noel Kate Cho)と息子のデイヴィッド(Alan Kim)が乗り込み、農場、牛、サイロなど流れていく窓外の景色を眺めている。森を抜け、開けた草地の中にトレーラーハウスがあった。茫然とするモニカ。子供たちは家の床下に車輪が付いていることに興味を示す。ジェイコブ(Steven Yeun)は子供たちを、トレーラーハウスの高い入り口へ担ぎ上げる。続いてモニカに手を貸そうとするが、断られる。勝手に決めて。お金は子供たちのためにも使ってよ。憮然とするモニカ。いいところに連れて行こう。ジェイコブは家族を草原に連れ出す。彼は地表を覆う草をよけて土を僅かに取って妻に示す。この土に惚れて来たんだ。大きな農園を作るんだ。ジェイコブには、韓国野菜を栽培してダラスに卸して成功する夢があった。トレーラーハウスに戻ったモニカは、デイヴィッドの血圧を測り、心音を確認する。息子は心臓に疾患があるのだ。モニカは新居が病院まで1時間と離れた場所にあるのも懸念された。一家は近くの孵化場を訪れる。夫婦は雌雄鑑別に従事する人々のもとに案内される。場長(Darryl Cox)はカリフォルニアからやって来たリー夫妻だと紹介して拍手するが、従業員からは何の反応もない。ジェイコブは肛門鑑別に熟練しており、物凄い速さで雌雄を分別していく。モニカの隣にいた女性(Esther Moon)がジェイコブの技能に驚嘆する。私は夫のようにはできないわ。モニカは彼女との話から、韓国出身者も住んでいる地域だと知る。アンは弟と百科事典を読んで静かに両親を待とうとしたが、時間を潰すのに飽きたデイヴィッドは仕事場を覗く。ジェイコブは休憩にすると息子を外に連れ出す。あの煙は何? 廃棄の煙だ。ハイキ? 役に立たないオスは捨てられちゃうんだ。役に立つ男でいなくちゃな。ジェイコブの土地にダウジングで水を探し当てようという男(Ben Hall)がやって来る。水のあるところが分かるんだ。200ドルでどうだい。ジェイコブは申し出を断り、息子に語りかける。頭を使うんだ。水は高いところと低いところとどっちが好きだ? ジェイコブは当たりを付けた場所をスコップで掘り進めてゆく。穴の底から水が染み出してくると、ジェイコブは雄叫びを上げる。ジェイコブは中古のトラクターを手に入れる。運んできたポール(Will Patton)が、自分を農場で使わないかとジェイコブに持ちかける。縁があるんだ。ポールは財布から韓国の紙幣を取り出す。ポールは朝鮮戦争の帰還兵だった。人見知りのデイヴィッドはポールから紙幣をもらっても何も言わない。トレーラー・ハウスにハリケーンが迫っていた。

 

韓国からアメリカ・カリフォルニアに渡ったジェイコブ(Steven Yeun)とモニカ(Han Ye-ri)の夫婦が、娘のアン(Noel Kate Cho)と息子のデイヴィッド(Alan Kim)とともに、再起をかけて移り住んだアーカンソーの農場での生活を描く。
「ひよこ鑑定士」で食いつないできたジェイコブは、韓国野菜の農場経営者になって家族に豊かな暮らしをさせたいという夢がある。だが、妻のモニカは、農場経営は夫の自尊心を満たすための無謀な賭けで、子供たちの教育や医療にこそお金をかけたいと考えている。
キリスト教が重要なモティーフの1つとなっている。ジェイコブが新天地に「大きな庭」を作ると言うのも、「エデンの園」のイメージと重ね合わせている。
ダウザー(Ben Hall)のダウジングや信心深いポール(Will Patton)の祈りや悪霊払いを、「頭を使う」ジェイコブは迷信として取り合おうとしない。知性への過剰な信頼もまた一種の信仰であって、非科学的なものの背後に存在する価値(例えば自然に対する畏敬の念のようなもの)を見失っているとのメッセージが籠められている。
お祖母ちゃんはクッキーを焼くものというような、デイヴィッドの固定観念もまた揺るがされることになる(なお、本作は、デイヴィッドの祖母スンジャ(Youn Yuh-jung)に対する気持ちの変化が主軸となっている)。