映画『ヴィレッジ』を鑑賞しての備忘録
2023年製作の日本映画。
120分。
監督・脚本は、藤井道人。
撮影は、川上智之。
照明は、上野甲子朗。
録音は、岡本立洋。
美術は、部谷京子。
スタイリストは、皆川美絵。
ヘアメイクは、橋本申二。
編集は、古川達馬。
音楽は、岩代太郎。
山間の川沿いに広がる霞門村。頻繁に霧が掛かる山の中腹に聳えるコンクリート造のゴミ焼却施設が村を睥睨する。
村の祭り霞門祭。神社の能舞台では薪能が催され、邯鄲が演じられている。客席では大人たちに混じって坐った少年が食い入るように鑑賞している。
男が自宅の床に灯油を撒いている。棚に並んだ写真立ての中から、親子3人の映った写真を1つを手に、しばし眺める。男は着火したライターを床に落とす。火が瞬く間に家中に広がる。
散らかった部屋で片山優(横浜流星)が目を覚ます。寝たまま煙草を一服する。やはり乱雑な居間では優の母・君枝(西田尚美)が眠っている。優が家を出る。
1台のバスが川沿いの道を抜け、霞門村の停留所に停まる。スーツケースを持って降りてきたのは中井美咲(黒木華)。実家に向かってスーツケースを引っ張って歩く。
ごみ焼却施設に隣接する埋め立て処分場。隅にあるテントでは、作業員が廃棄物の分別を手作業で行っている。現場監督の大橋透(一ノ瀬ワタル)は優ともう1人にボクシングをさせている。優、やらせっぱなしじゃねえか。透は優を嗾ける。興奮した優が相手の腹に一発決めると、激昂した相手に顎にパンチをお見舞いされる。顔は反則だ。透が賭け金を分配していると、自動車が入って来る。透の父で村長、ゴミ焼却施設の社長でもある大橋修作(古田新太)が、施設拡張費用の助成を受けようと地元選出議員を案内するためだった。
自宅で美咲が薬を飲んでいると、父親からもう少ししたら役場へ行こうと声をかけられる。
業務を終えた優がホースで水飲み、顔を洗っている。お疲れッス。筧龍太(奥平大兼)が隣に来て靴を洗う。優君ってずっとこんな感じ? 最近入ったからよく分かんないけど、いじめでしょ。俺、無理だな。…俺だって無理だよ。優が呟く。カネ返し終わるまでは地獄だな。龍太が嘆いてみせる。
仕事帰りに優がスーパーに立ち寄る。優を見かけた女性客が噂話を始める。優の父親はかつてゴミ焼却施設建設に反対して村八分にされ、賛成派を殺害した上で自宅に火を放ち自殺した。優は犯罪者の息子として少なからぬ村民から目の敵にされ続けていた。
優が自宅に帰ると、母親は居間で煙草を吸っていた。お帰り。ね、あのさ、来月分先払いしてよ。先週あげたばっかだろ。調子よかったのにさ、隣のババアのせいで全部呑まれちゃった。優が呆れると、君枝は親に向かってその態度は何なの、すぐに返すって言ってるでしょと怒鳴り散らす。優は財布を取り出して札を何枚か母親に投げる。
優が自室で煙草を吸いながらスマートフォンでゲームをしていると着信がある。
真夜中の山道を2台のダンプトラックがゴミ処理施設の埋め立て処分場に向かう。
トラックの荷台が傾き、いくつも箱が穴に向かって落とされる。数名の作業員がシャベルを使い、土を掛けていく。優や龍太の姿もある。終わんねーぞ、急げ。透が作業員に発破をかけると、不法投棄を仕切る丸岡勝(杉本哲太)の元へ向かう。お疲れッス。大量ッスね。透は丸岡から謝礼を受け取る。少なくないッスか? 透が愚痴るが丸岡は相手にしない。透は口止めのため作業員を撮影する。レンズに顔を向けない優に透がぶち切れる。何反抗してんだオメーは。龍太はおどけて撮影に臨む。
作業が終了し、作業員たちが1人ずつ丸岡から支払いを受ける。おお優、お袋さん元気か? ギャンブルはほどほどにしとけって伝えてくれ。お前だってこの村から出たいだろ? ありがとうございます。優は小声で礼を言って立ち去る。
昼間、テントで分別を行っていた優は、埋め立て処分場に丸い穴が開いていて、そこから奇妙な音が聞こえるのに気付いた。優はフラフラと穴の方へ向かうと耳を澄ます。龍太が、優の奇妙な行動を気にして優から言われるがままに穴からの音を聞こうとするが、何も聞こえない。
霞門村を囲む山の中腹には巨大なゴミ焼却施設が聳える。片山優(横浜流星)は作業員として勤務しているが、彼の父親はかつてゴミ処理施設建設に反対して村八分にされ、賛成派住人を殺害した上、自宅に火を放ち自殺した。優は未だに少なからぬ村民から目の敵にされている。優の母・君枝(西田尚美)は酒とギャンブルに溺れ、息子に無心を繰り返すだけでなく、借金まで拵えている。優は丸岡勝(杉本哲太)が仕切る不法投棄のアルバイトまでして金を工面していた。
ゴミ焼却施設の社長であり村長を務める旧家・大橋家の長男・修作(古田新太)は、埋め立て処分場を増設しようと地元選出の議員への働きかけを強めている。村の存続に腐心する修作は、末期癌で死が迫る母・ふみ(木野花)が今は村を出て刑事をしている弟・光吉(中村獅童)に目を掛けていることに鬱屈していた。光吉には村の伝統芸能である能に秀でた才能があった。修作の息子・透(一ノ瀬ワタル)は父親の権勢を笠に着て数々のトラブルを引き起こしながら、修作に揉み消してもらい増長していた。透は丸岡に埋め立て処分場の便宜を図り不法に利益を上げていたが、修作は黙認していた。
優の幼馴染みで東京に出ていた中井美咲(黒木華)が精神を病んで実家に戻る。村長の修作の口利きで村の広報の仕事を任された。美咲はゴミ処理施設で小学生の社会科見学の受け入れを提案し、優にその案内役を頼む。優の父親が事件を起こすまで、幼い2人は光吉から能の手解きを受け親しくしていたことを思い出す。東京に出て垢抜けた美咲に好意を抱く透は、犯罪者の息子である優の方が美咲から気に掛けられるのが気に入らない。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
霞門村のゴミ処理施設で作業員をしている優は、埋め立て処分場に開いた穴から呼吸のような音がするのを聞く。それは死者の声であり、かつて光吉から能を習っていた優だからこそ聴き取ることができたのだろう(実際、龍太には聞こえない)。
優の父は、ゴミ処理施設の建設に反対して村八分にされ、その恨みを晴らそうと賛成派の村民を殺害した後、自宅に火を放って自殺する。優の父は焼却施設を建設する村自体を焼却して見せようとしたのである。だが焼却処分により全ては帳消しになったかと言えば、ならなかった。父親の犯した罪は、妻の君枝や息子の優に引き継がれたのである。
優が、父が死を賭してまで反対したゴミ処理施設で働いているのは何故か。それは、村で生きている優が、父とは異なり村(の総意?)に順応していることを示すためであろう。同時に、父の罪を(文字通り)埋め合わせるために、優はスコップを握るのである。
だが、過去を忘却の彼方に埋め尽くすことはできるのだろうか。否、出来ないのである。村に伝承されて来た能を受け継ぐ光吉が戻ってきて、過去を暴き出してしまう。能は、死者の声を聞く、すなわち歴史を現前させるものであり、言わば刑事なのだ。
横浜流星が作品を映画として成り立たせている。