展覧会『Synthetic Natures もつれあう世界:AIと生命の現在地』を鑑賞しての備忘録
シャネル・ネクサス・ホールにて2025年10月4日~12月7日。
ソフィア・クレスポ[Sofia Crespo]及び、クレスポがフェイレカン・カークブライド・マコーミック[Feileacan Kirkbride McCormick]と組む「エンタングルド・アザーズ[Entangled Others]」の、生物に関するアナログとデジタルのデータをAIで改変して生み出した作品を展観する。長谷川祐子主宰のキュレーター育成プログラム「Hasegawa Curation Lab.」との協働で、三宅敦大がキュレーションを担当する。
エンタングルド・アザーズ《流動する海洋層:変態するアルゴフロート[Liquid Strata: Argomorphs]》(2025)は、深海からデータとともに付着物を得る深海情報観測機器「アルゴフロート[Argofloat]」のイメージを元にした彫刻。アンテナを立てたシリンダーのタワーの周囲に軟体動物の触手や珊瑚を始めとする有機的な形態が種々取りついた銀色に輝く彫刻作品。会場には映像作品を挟んで3点が配置されれる。榎忠の旋盤による金属彫刻の塔《RPM-1200》の密集により生まれる有機的なイメージに通じるものがあるだろうか。
エンタングルド・アザーズ《自己完結モデル[self-contained]》(2023–2024)は、類似したイメージを持つ生物の遺伝子データをランダムに繋ぎ併せて新たな生命の形をシミュレーションする作品。併せて、新たに生成された生命のDNAデータを遺伝子モデルを模した彫刻の作品に収める。
ソフィア・クレスポ《捉えきれなかったものたち[Temporally Uncaptured]》(2023–2024)は過去の生物図譜から採取したデータを用いて生物のライフサイクルや変化を表現する映像作品。青地に白く浮き出るイメージは、アンナ・アトキンス[Anna Atkins]が制作した植物のサイアノタイプに由来する。デジタルデータを一旦サイアノタイプに表現した後に再度デジタルデータに取り込むのは、インターネットの情報が環境を構成している現状のアナロジーでもあるという。転写の際に生じる変異にも期待を寄せているのだろう。
ソフィア・クレスポ《人工自然史[Artificial Natural History]》(2020-2025)は、博物図譜をデータセット化し、AIを用いて架空の生物を描き出した作品。レオ・レオーニ[Leo Lionni]の「平行植物[La botanica parallela]」に通じる試みである。
エンタングルド・アザーズ《見せかけの湧昇[specious upwellings]》(2022-2024)は、深海から海面へ向かって栄養豊富な水が湧き上がる「湧昇」をモティーフに、クラウド上で得られたデータをもとに架空の複合的な生命体として描き出した作品。深海の未知の世界の豊饒さを視覚した点では、彫刻作品《流動する海洋層:変態するアルゴフロート》と同旨である。
かつてウィーン分離派が「時代にはその芸術を。芸術にはその自由を。[Der Zeit ihre Kunst. Der Kunst ihre Freiheit.]」とのモットーを掲げたが、アンナ・アトキンスやレオ・レオーニもAIの時代に生を享けていれば、ソフィア・クレスポのように自在にテクノロジーを操って生命の謎に取り組んだだろう。