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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 藤野麻由羅個展『回遊庭園』

展覧会『藤野麻由羅展「回遊庭園」』を鑑賞しての備忘録
アートスペース羅針盤にて、2020年8月3日~8日。

表題作《回遊庭園》など庭ないし池水をテーマとした絵画で構成される藤野麻由羅の個展。

薄墨の太い輪郭の丸みを帯びた形で前栽や石などを捉え、淡い色使いも相俟って、琳派中村芳中を思わせる柔らかな印象を持つ作品群。どちらかと言えばファンシーな画面の中で、池水が墨で表現されているのが特徴的。無論、《冴ゆる夜の》のように夜の情景であれば黒い水面は必然であろうが、《池泉庭園》など他の作品でも水を黒く表しているものがある。小さな池に花が浮かぶ《庭の星》と題された作品から、水面を天球に見立てる狙いがあるのだろう。《池泉庭園》に描かれる「八橋」は、光琳のものよりは、北斎の諸国名橋奇覧の造形に近い。だが、同じく伊勢物語をテーマにした「禊図」を想起させるようなジグザグを描く八橋は、橋脚がなく浮遊するように描かれる。この浮遊感覚にも池水と宇宙との類比が認められよう。《上の庭》、《回遊庭園》、《池泉庭園》、《冴ゆる夜の》、《庭の星》といった庭ないし池泉を描いた作品が、画面の橋の図像などで緩やかに結び合わされ、会場が回遊式庭園に見立てられている。回遊式庭園は江戸時代になって生み出されたものだそうだが(進士五十八『日本の庭園 造景の技とこころ』中央公論新社中公新書〕/2005年/p.44)、時代的にも琳派芸術との相関性が認められる。