可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ドッグマン』

映画『ドッグマン』を鑑賞しての備忘録
2018年のイタリア・フランス合作映画。
監督は、マッテオ・ガローネ(Matteo Garrone)。
脚本は、ウーゴ・キーティ(Ugo Chiti)、マッテオ・ガローネ(Matteo Garrone)、マッシモ・ガウディオソ(Massimo Gaudioso)。
原題は、"Dogman"。

マルチェロ(Marcello Fonte)はローマ郊外の海岸沿いの寂れた街で「DOGMAN」という店を構える犬のグルーマー。愛好する犬たちの世話を仕事にできたことに幸せを感じている。昼食時には近くのトラットリアで地元の商店主たちと歓談し、時折は仕事上がりに彼らとサッカーに興じている。だが彼が至福を感じるのは、離婚した妻(Laura Pizzirani)の下で暮らす娘のアリダ(Alida Baldari Calabria)と過ごす時間だった。アリダが店を訪れていたある日、シモーネ(Edoardo Pesce)がやって来る。彼はマルチェロにコカインを要求する。娘がいるからと断るものの全く聞き入れないシモーネ。マルチェロはやむなくコカインを渡し店を出るよう促すが、シモーネはマルチェロの希望などお構いなしに店内で吸引し始めてしまう。代価を払わず去ったシモーネをギャンブル・ショップで見つけたマルチェロは支払いを要求するが、シモーネはビデオ・スロットで300擦ったと機嫌が悪い。遂には機械を破壊し始めるシモーネに、店主(Francesco Acquaroli)はやむなく返金し、店を出て行ってもらうのがやっと。マルチェロは取り立てどころではなく、店主と機械を元の位置に戻すのを手伝うのだった。ある晩、仕事帰りのマルチェロは自宅の前でシモーネに呼び止められる。犬に餌をやらなければならないとのマルチェロの言い分には耳を貸さず、シモーネとその相棒はマルチェロに商用車を出させ、空き巣に向かう。貴金属や宝石類を盗んだシモーネらはマルチェロに犬が警報装置並にうるさかったので冷凍庫にしまってやったと語る。逃走の手助けの見返りにわずかな指輪を受け取ったマルチェロは、一人危険を冒して犯行現場に戻り、仮死状態のチワワを救うのだった。トラットリアの店主(Gianluca Gobbi)が殴られて鼻をへし折られるなど、シモーネの暴走は続き、商店主たちはプロを雇ってシモーネを消すことを話し合い始めていた。その最中、シモーネがマルチェロの店をコカインを求めて訪れる。マルチェロが手許にないし手に入れる金もないと告げると、シモーネは後払いにしてでも手に入れろとマルチェロを後部座席に座らせてバイクを走らせるのだった。

 

ノーカントリー(No Country for Old Men)』のアントン・シガー(Javier Bardem)まではいかないが、災厄をもたらすシモーネの凶悪さが圧倒的で(Edoardo Pesceが素晴らしい)、誰にも抗う術がない。マルチェロ(Marcello Fonte)はシモーネの言いなりに悪事を重ねていくことになる。ただマルチェロにも溺愛する娘のために父親として良いところを見せたいなどの欲があり、それがシモーネが付け込む隙ともなっている。単なる隷属ではない、わずかながらも互酬的要素の付加が、悲惨な境遇にあるマルチェロに対する同情一辺倒を観客から遠ざける。そして、何より、商店主たちの弱さ、マルチェロの弱さ、そしてシモーネの弱さ、と弱さのニヒリズムがひたすら突き付けられる。応報主義、あるいは犯罪者と同じ土俵に立つことへの戒めをこそ訴えている作品であろうか。