展覧会『青木豊展「Today's」』を鑑賞しての備忘録
KOSAKU KANECHIKAにて、2019年3月9日~4月13日。
青木豊の絵画展。
例えば、銀色の絵の具が画面に塗られている作品。月明かりに照らされた夜の海を思わせる。絵筆の動きを目で追えば、工芸で描かれてきた、波兎の気分を味わうことができるかのようだ。銀の絵の具がつくるのは画面(表面・絵肌)というより彫刻と言えるほど、絵の具が物質として立ち現れる。その点では、アクション・ペインティングに通じるダイナミックな絵筆の動きの痕跡が認められる。もっとも、アクション・ペインティングが作者の動きの痕跡を定着させる、パフォーミング・アートを指向するのに対して、絵の具の色の選択や、マスキング・テープを使用したと思しき地塗りを見せるための工夫からは、絵の具が反射する光と、絵の具がつくる影とを効果的に見せることに意を用いていることが分かる。何かを再現するのではなく、作品自体で光と影の織りなす世界を鑑賞者に体験させようという目論みだろう。とりわけ、白い壁面に掛けられた、白い画面に白い絵の具で描かれた作品は、一面の雪がつくる銀世界のように魅力的であったが、それは雪景の再現なのではなく、白い絵の具で作者が作り上げた世界、一つの現実なのだ。