可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ハニーボーイ』

映画『ハニーボーイ』を鑑賞しての備忘録

2019年製作のアメリカ映画。95分。
監督は、アルマ・ハレル(Alma Har'el)。
脚本は、シャイア・ラブーフ(Shia LaBeouf)。
撮影は、ナターシャ・ブレイア(Natasha Braier)。
編集は、モニカ・サラザール(Monica Salazar)とドミニク・ラペリエール(Dominic LaPerriere)。
原題は、"Honey Boy"。

 

2005年。航空機の残骸の前に立つオーティス(Lucas Hedges)が、ミサイルの爆風で後方に吹き飛ばされる。カットがかかり、ワイヤーにぶら下げられたオーティスが、スタッフの手を借りて、ゆっくりとカメラ前にまで引き戻される。子役からキャリアをスタートさせたオーティスは現在22歳。様々な映画に出演しているが、トレーラーの控え室に戻る度に酒に手を出すことを止められない。恋人を助手席に乗せて自動車を運転している最中、自動車の追突を受けて車は二転三転。映画のカー・アクションのようだが、現実だった。酔ったオーティスはパトカーに乗せられても警官に悪態をつき続ける。リハビリ施設への入所を命じられたオーティスは、カウンセラーである医師のモレノ(Laura San Giacomo)から、3度目なので、仮に施設から逃走すれば4年間の収監は免れないと警告される。彼女はオーティスの問題行動の背景に父親からの虐待によるPTSDがあると判断し、暴露療法を採用することにする。オーティスにトラウマである父親との記憶をたぐり寄せさせることで、徐々に不安を克服させることを目論んでいた。オーティスは暴露療法に抵抗し、毛糸を編む作業にも手が付けられず、メンターのアレック(Martin Starr)の指示にも従えないでいた。それでもルームメイトが気のいいパーシー(Byron Bowers)であったことは幸運だった。
1995年。12歳のオーティス(Noah Jupe)の顔面にパイが投げつけられ、オーティスは後方へ飛ばされる。カットとなり、ワイヤーにぶら下げられたオーティスが、スタッフの手を借りて、ゆっくりとカメラ前にまで引き戻される。付き添いの父ジェームズ(Shia LaBeouf)を見つけワイヤーアクションのハーネスを外してもらおうとする。だが、ジェームズは、ロデオ・クラウンとして鶏を使った芸をサンドラ(Maika Monroe)に話すのに夢中で、まるで気にとめていない。結局サンドラから電話番号を聞き出すことはできず、ジェームズはオーティスを乗せてバイクを走らせる。父子が向かうのは「仮住まい」のモーテル。向かいの住人の娘(FKA Twigs)が何をするでもなく部屋の前の椅子に座っている。母親から服について注意されている。モーテルには限られた台数の洗濯機しかなく、ジェームズが向かいの住人に洗濯について文句をつけている。ロデオを見たことがあるのか尋ねるジェームズに、オーティスはあると答える。どこで見たのか。覚えていない。クラウンが出る本物を見てないだろう。トイレに立ったオーティスに、ペニスの大きさは母親譲りで哀れだとけなすジェームズ。しっかりと役に立っていると反論するオーティス。翌日の予定を確認し、ジェームズはオーティスに早く寝るよう告げる。オーティスは「トルネード投法」のノモの試合を見に行くからと小遣いをねだる。球場までどうやって行くのか問われたオーティスは、黙っていたかったが、トム(Clifton Collins Jr.)に連れて行ってもらうことを白状してしまう。トムは青少年を支援する「ビッグブラザース・ビッグシスターズ」のヴォランティアで、母(Natasha Lyonne)の要請でオーティスを後見していたが、ジェームズはそれを嫌がっていたのだ。それでもジェームズはトムがバーベキューに顔を出すならとの条件で、オーティスの野球観戦を認めるのだった。

 

アルコール依存症に陥った俳優が過去と向き合って克服する姿を、その過去とともに描く作品。父子を演じた3人の俳優Lucas Hedges、Noah Jupe、Shia LaBeoufの力で魅せる作品。
撮影所からオーティス(Noah Jupe)を乗せた父ジェームズ(Shia LaBeouf)がバイクを走らせるシーン。問題の多い父親であっても、オーティスが離れることのできない理由を、そのバイクに二人乗りする姿に象徴させることで描ききってしまっていた。

モーテルを舞台にした作品として忘れ難いのは、ショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)。こちらは貧困に苦しむ母娘を描く。最後の最後まで最高。