展覧会『有馬莉菜展』
JINEN GALLERYにて、2025年11月18日~30日。
街中で見かける日常的なモティーフを雨水貯留槽らしき構造物内や生活空間に配した絵画で主に構成される、有馬莉菜の個展。
《足跡》(1000mm×1000mm)は、地下貯水槽のような場所に立つ樹木や構造物、岩など天然物・人工物を取り混ぜたモティーフが並ぶ作品。黒い水の中から垂直に延びる高木は画面から切れる直前で1本の枝を伸ばす。その脇には「東京」と白い文字で記した緑の板を支える2本の白いポールが立つ。樹木とポールとの間をオレンジ色のフロートブイの列が蛇行しながら走る。右奥から左手前に向かう中途で旗や道路標識の脇を抜ける。真っ白な壁の際には荒磯に見られる岩があり、その上部に張り出す庇には照明器具が3つ並ぶ。さらに上方には縞模様の屋根が壁から直接飛び出すが何処へ続いているのかは画面から切れて見えない。その他にも貯水槽などのモティーフが描かれるが、いずれも左手前上方からの光により壁に影を落とし、かつ水の中に設置されたモティーフは黒い水面にイメージを映す。
《街中》(455mm×530mm)も同じく地下貯留槽のような場所を舞台にした作品である。黒い水面には上端・下端を白いロープで結わえた丸太が浮かび、赤いカラーコーン、黄色いプロペラ型風向風速計、ヤシの木、アンテナ、岩、クレーンなどが並ぶ。ところどころに罅の入る白い壁の水面附近にはガス管らしき配管が十字に組まれ、画面上部には梯子が覗く。やはり左上の光源により壁面に影ができ、水面にはモティーフの鏡像が現われる。
実体と影、実体と映像が一体的な世界の似姿である。
白い壁に青いつなぎが掛かり、視力検査表の紙が貼られ、白い床には公園に見られる用事が乗る黄色い遊具が設置され、脇にドーナツと赤いハイヒールが置かれた《公園》(220mm×273mm)は、意外な組み合わせによるデペイズマン[Dépaysement]の作品と評し得る。《整理整頓》(273mm×220mm)に描かれる、ハンガーに掛けられたマフラー、壁に立て掛けた風景画、飲み物の入った紙コップ、6枚切りの食パン、蚊取り線香などは、部屋にあっても違和感のないモティーフの集合と言える。それでも、その物の組み合わせは偶然の事情であり、「解剖台上でのミシンと蝙蝠傘の意図せぬ邂逅[la rencontre fortuite sur une table de dissection d'une machine à coudre et d'un parapluie]」(ロートレアモン伯[Le Comte de Lautréamont]『マルドロールの歌[Chants de Maldoror]』)に等しい、一期一会である。日常をタブラ・ラサ[tabula rasa]で見詰めることができるか。だから作家は白い空間を舞台に選ぶのであろう。
もっとも、作家の何よりの関心は、白いキャンヴァスにモティーフをいかに配置するか、赤や黄のアイキャッチをいかにいれ、絵画を成り立たせる条件を探究することにあるのは疑いない。